帯状疱疹は、過去にかかった水痘(水ぼうそう)の原因ウイルスである「水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)」が体内に潜伏し、免疫力の低下などをきっかけに再活性化することで発症する病気です。
神経に沿って強い痛みと、その神経が支配する皮膚領域に赤い発疹や水ぶくれが現れるのが特徴です。
帯状疱疹の治療は、症状の緩和、ウイルスの増殖抑制、そして合併症(特に帯状疱疹後神経痛)の予防が主な目的となります。治療の中心となるのは抗ウイルス薬ですが、痛みに対する治療も非常に重要です。帯状疱疹を発症したかな?と思ったら、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。
帯状疱疹の治療方針:早期受診の重要性
帯状疱疹の治療において、最も重要なのは「早期発見・早期治療」です。症状が現れてからできるだけ早い段階で医療機関を受診し、治療を開始することが予後を大きく左右します。
発症から72時間以内が鍵
一般的に、帯状疱疹の症状(ピリピリ、チクチクといった神経痛や皮膚の違和感、赤い発疹など)が現れてから、72時間以内(約3日以内)に抗ウイルス薬の服用を開始することが望ましいとされています。これは、抗ウイルス薬がウイルスの増殖を抑える効果を最大限に発揮できるのが、ウイルスの増殖が活発なこの初期段階だからです。
抗ウイルス薬の効果を最大限に引き出す
発症から72時間以内に抗ウイルス薬による治療を開始することで、ウイルスの増殖を効果的に抑制し、以下のようなメリットが期待できます。
- 皮疹の拡大や新たな水ぶくれの形成を抑える
- 痛みの程度を軽減する
- 痛みの持続期間を短縮する
- 皮膚症状や痛みの治癒を早める
治療開始が遅れると、ウイルスが増殖して病状が進行してしまい、抗ウイルス薬の効果が十分に得られにくくなる可能性があります。
帯状疱疹後神経痛(PHN)のリスク軽減
帯状疱疹の最も頻繁でやっかいな合併症が、帯状疱疹後神経痛(Postherpetic Neuralgia: PHN)です。これは、皮膚症状が治った後も痛みが数ヶ月、あるいは何年も続く状態です。皮疹出現前の痛み、強い痛み、強い皮疹、眼にかかる帯状疱疹などはPHNのリスク因子とされており、また免疫抑制、全身性エリテマトーデス(SLE)、糖尿病、外傷なども関連する可能性があると報告されています[[4]]。特に高齢者ではPHNに移行するリスクが高いことが知られており、50歳以上で帯状疱疹に罹患した患者の12.5%はPHNに移行するという報告もあります[[4]]。
早期に抗ウイルス薬による治療を開始し、ウイルスの増殖を抑え、神経の損傷を最小限に留めることは、帯状疱疹後神経痛への移行リスクを減らすことにつながります。痛みが長引くと、日常生活に大きな影響を及ぼし、精神的な負担も大きくなります。
合併症の早期発見と対応
帯状疱疹は、顔面や目の周り、耳の周りなどにできると、視力や聴力に関わる神経、顔面神経などに影響を及ぼし、重篤な合併症(失明、難聴、顔面神経麻痺など)を引き起こすことがあります。早期に医療機関を受診することで、これらの合併症のリスクが高いかどうかを判断してもらい、必要に応じて眼科や耳鼻咽喉科などの専門医への受診を指示してもらうことができます。合併症が疑われる場合も、早期の対応が重要です。
このように、帯状疱疹の治療は時間との勝負といえます。「少しでもおかしいな」「チクチクする痛みと赤い発疹がある」と感じたら、「たかが湿疹だろう」と自己判断せず、できるだけ早く皮膚科や内科などの医療機関を受診するようにしましょう。
医療機関で行われる帯状疱疹の治療法
医療機関では、帯状疱疹の診断に基づき、主に「抗ウイルス薬による治療」と「痛みに対する治療」が行われます。患者さんの年齢、症状の程度、皮疹の部位、合併症の有無、持病などを総合的に考慮して、最適な治療法が選択されます。
抗ウイルス薬による治療
帯状疱疹の治療の根幹となるのが、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬です。これらの薬剤は、体内の水痘・帯状疱疹ウイルスのDNA合成を阻害することで、ウイルスの数を減らし、病気の進行を抑え、回復を早める効果が期待できます。
抗ウイルス薬の効果と服用期間
抗ウイルス薬は、前述の通り、発疹が出てから72時間以内に服用を開始することが最も効果的です。一般的に、抗ウイルス薬は7日間継続して服用します。決められた期間、自己判断で中断せず、指示通りに服用することが重要です。症状が改善したからといって途中でやめてしまうと、ウイルスの増殖を十分に抑えきれず、再燃したり痛みが遷延する可能性があります。
現在、日本で帯状疱疹の治療に用いられている主な抗ウイルス薬には、以下の種類があります。
- アシクロビル (Acyclovir):ゾビラックス®など
- 古くから使われている標準的な薬剤です。
- 通常、1日5回(朝・昼・夕・寝る前・深夜)服用する必要があります。服用回数が多いため、飲み忘れに注意が必要です。
- 腎臓から排泄されるため、腎機能が低下している場合は投与量を調整する必要があります。
- バラシクロビル (Valaciclovir):バルトレックス®など
- アシクロビルのプロドラッグ(体内でアシクロビルに変換される形で吸収されやすくしたもの)です。
- アシクロビルより吸収が良く、血中濃度が長く維持されるため、通常、1日3回の服用で済みます。アシクロビルより飲みやすい薬剤と言えます。
- アシクロビルと同様に、腎機能が低下している場合は投与量調整が必要です。
- ファムシクロビル (Famciclovir):ファムビル®など
- こちらも体内で活性代謝物(ペンシクロビル)に変換されて効果を発揮します。
- 通常、1日3回の服用です。
- 他の抗ウイルス薬と同様に、腎機能が低下している場合は投与量調整が必要です。
これらの薬剤は、ウイルスの増殖を抑える効果に加え、帯状疱疹に伴う痛みを軽減する効果も期待できます。皮疹の治癒を早め、痛みの期間を短縮し、帯状疱疹後神経痛への移行を抑制する効果も報告されています。
抗ウイルス薬の主な副作用としては、吐き気、下痢、腹痛、頭痛、発疹、肝機能障害などがありますが、比較的少ないとされています。重篤な副作用は稀ですが、意識障害や腎機能障害などが起こる可能性もゼロではありません。医師の指示通りに服用し、気になる症状が現れた場合はすぐに相談しましょう。
抗ウイルス薬が効かない場合の可能性
指示通りに抗ウイルス薬を服用しているにも関わらず、皮疹が悪化したり、痛みが全く軽減しない、あるいは強くなるなどの場合は、いくつかの可能性が考えられます。
- 服用開始が遅かった: 発症から72時間以上経過してからの服用では、ウイルスの増殖を十分に抑えられないことがあります。
- 免疫機能が著しく低下している: がん、HIV感染症、臓器移植後などで免疫抑制剤を服用している場合など、体の免疫力が非常に低い状態では、抗ウイルス薬の効果が出にくいことがあります。
- 薬剤耐性ウイルスの可能性: 非常に稀ですが、抗ウイルス薬が効きにくい耐性を持ったウイルスによる感染の可能性もゼロではありません。特に免疫不全の患者さんで起こりやすいとされます。
- 診断が異なる: 帯状疱疹と似た症状を示す他の病気(単純ヘルペス、接触皮膚炎、蜂窩織炎など)である可能性も考慮する必要があります。
- 症状の個人差・重症度: 帯状疱疹の症状の現れ方や重症度には個人差があり、抗ウイルス薬を服用しても症状が完全に消失するまでには時間がかかることが一般的です。特に痛みの改善には、抗ウイルス薬の効果に加えて、後述する痛み止めが必要になることが多いです。
抗ウイルス薬を服用しても症状が改善しない場合は、必ず医師に相談してください。必要に応じて、診断の再確認や他の治療法の検討が行われます。
痛みに対する治療(痛みを和らげる方法)
帯状疱疹に伴う痛みは非常に強く、日常生活に支障をきたすことが多いため、痛みに対する治療も抗ウイルス薬と並行して重要になります。痛み治療は、急性期の痛みを和らげるだけでなく、帯状疱疹後神経痛への移行を予防する目的も含まれます。
帯状疱疹の痛みは、初期のピリピリ、チクチクといった痛みから、発疹出現後は焼けるような痛み、電気が走るような痛み、締め付けられるような痛みなど、多様な性質を持つ神経障害性疼痛の特徴を伴うことがあります。そのため、一般的な鎮痛薬だけでなく、神経の痛み(神経障害性疼痛)に特化した薬剤が用いられることもあります。
痛みの程度や性質に応じて、以下の薬剤が組み合わせて使用されます。
飲み薬による痛み止め
急性期の疼痛に対しては、アセトアミノフェンやNSAIDsが使用されます[[1]]。痛みが不十分な場合は、オピオイド鎮痛薬が使用されることもあります[[1]]。「ピリピリ」「ヒリヒリ」といった神経痛の症状が強い場合は、プレガバリン、抗うつ薬、ワクシニアウィルス接種家兎炎症皮膚抽出物質などの薬物も使用されることがあります[[1]]。
- アセトアミノフェン: カロナール®など
- 比較的痛みが軽い場合に用いられます。解熱鎮痛作用があり、胃腸への負担が比較的少ないとされています。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): ロキソプロフェン(ロキソニン®)、ジクロフェナク(ボルタレン®)など
- 炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。比較的痛みが強い場合に用いられます。
- ただし、胃腸障害や腎機能障害などの副作用のリスクがあるため、使用には注意が必要です。特に高齢者や胃潰瘍・腎臓病の既往がある場合は慎重に用います。
- 神経障害性疼痛治療薬:
- プレガバリン (Pregabalin):リリカ®など
- 神経の興奮を鎮め、神経障害性疼痛を和らげる効果があります。帯状疱疹後神経痛の治療薬としても広く用いられています。
- 副作用として、めまい、眠気、ふらつきなどが出やすいことがあります。少量から開始し、徐々に量を増やしていくことが多いです。
- ミロガバリン (Mirogabalin):タリージェ®など
- プレガバリンと同様に神経障害性疼痛に効果があり、比較的新しい薬剤です。
- プレガバリンに比べて副作用が少ないとも言われますが、個人差があります。こちらも少量から開始し、漸増していくことが多いです。
- プレガバリン (Pregabalin):リリカ®など
- 弱オピオイド: トラマドール(トラマール®、ワントラム®など)、トラマドール・アセトアミノフェン配合剤(トラムセット®)
- 通常の痛み止めで効果が不十分な場合に用いられることがあります。脳や脊髄に作用して痛みを抑えます。
- 副作用として、吐き気、便秘、眠気などが出やすいです。依存性のリスクもあるため、医師の指示通りに適切に使用することが重要です。
- 抗うつ薬、抗てんかん薬: 一部の抗うつ薬(三環系抗うつ薬、SNRIなど)や抗てんかん薬(カルバマゼピンなど)が、神経障害性疼痛に効果を示すことがあり、痛みの性質や程度によっては選択されることがあります。
外用薬(塗り薬)
痛みの部位に直接作用させる外用薬も用いられることがあります。
- カプサイシンクリーム:
- 唐辛子の辛み成分であるカプサイシンを含んだクリームです。神経末端に作用し、痛みの信号伝達物質(サブスタンスPなど)を減少させることで痛みを和らげます。
- 塗り始めに灼熱感やヒリヒリ感が出やすいという特徴があります。痛みが強いため、皮膚症状が治癒した後の帯状疱疹後神経痛に対して用いられることが多いです。
- リドカインテープ: リダテープ®など
- 局所麻酔薬であるリドカインを含むテープです。患部に貼ることで神経の興奮を鎮め、痛みを和らげます。
- 皮膚症状がある場所には原則として貼れません。皮膚症状が治癒した後の帯状疱疹後神経痛や、皮膚が過敏になっている(アロディニア)場所などに用いられます。
神経ブロック注射
薬物療法が不十分な場合、痛みが非常に強い場合や、帯状疱疹後神経痛への移行リスクが高いと判断された場合に、神経ブロック注射が検討されることがあります[[1]]。
- 対象: 痛みが強い急性期や、痛みが持続している場合、特に顔面や頭部に帯状疱疹ができた場合など。
- 種類: 帯状疱疹ができた部位や痛みの性質に応じて、硬膜外ブロック、神経根ブロック、持続硬膜外ブロック等、様々な方法があります[[1]]。星状神経節ブロック(首)、肋間神経ブロック(胸・背中)、脊髄神経後枝ブロックなどもあります。
- 効果: 痛みの神経に局所麻酔薬などを注射することで、痛みの信号伝達を遮断し、痛みを和らげます。また、神経周囲の血行を改善することで、神経の回復を促す効果も期待できます。早期に行うことで、帯状疱疹後神経痛の予防効果も期待される場合があります。
- リスク・副作用: 注射に伴う痛み、内出血、神経損傷、感染などのリスクがゼロではありません。専門医(ペインクリニック医など)によって行われます。
痛みに対する治療は、痛みの程度や性質、患者さんの状態に合わせて柔軟に行われます。痛みを我慢せず、医師にしっかり痛みの状態を伝えることが、適切な治療を受ける上で非常に重要です。
帯状疱疹の治療期間と経過
帯状疱疹の治療期間や症状の経過には個人差がありますが、一般的な流れを理解しておくことは、治療への不安を軽減することにつながります。
発疹が出てから治るまで何日かかる?
帯状疱疹の皮膚症状は、通常以下のような経過をたどります。
- 前駆症状: 発疹が出現する数日前から、体の片側の一部にピリピリ、チクチクといった神経痛や、かゆみ、違和感などが現れることがあります。この時点ではまだ発疹はありません。
- 紅斑(赤い発疹)出現: 神経痛があった部位に沿って、帯状に赤い斑点(紅斑)が現れます。通常、数日かけて広がります。
- 水疱(水ぶくれ)形成: 紅斑の上に、丘疹(ぶつぶつ)ができ、やがて透明な液体が入った小さな水ぶくれ(水疱)がたくさん集まってできます。これが帯状疱疹の最も特徴的な状態です。水疱ができるまでには、発疹出現から数日かかります。
- 膿疱・破裂: 水疱の中の液体が濁って膿疱になることもあります。やがて水疱が破れたり、乾燥したりします。この頃には痛みがピークを迎えることが多いです。
- かさぶた(痂皮)形成: 水疱や膿疱が破れた後、皮膚が乾いてかさぶたになります。かさぶたができるまでには、水疱形成から1週間〜10日程度かかります。
- 治癒: かさぶたが剥がれ落ちて、新しい皮膚が再生されます。皮膚の表面が治癒するまでには、発疹出現から約2週間〜3週間かかることが多いです。治った後も、しばらくの間、色素沈着(茶色くなる)や色素脱失(白くなる)が残ることがありますが、時間の経過とともに目立たなくなることが多いです。完全に元の皮膚の状態に戻るには、数ヶ月かかることもあります。
抗ウイルス薬による早期治療を行うことで、水疱の数が減ったり、かさぶたになるまでの期間が短縮されたりすることが期待できます。
痛みのピークはいつ?
帯状疱疹の痛みは、皮疹が現れる前から始まることがありますが、一般的には皮疹が出現する頃から水疱が最も多くできる頃にかけてピークを迎えることが多いです。この時期が最も痛みが強く、日常生活に支障をきたしやすいです。
抗ウイルス薬の服用や痛み止めの使用によって、痛みが徐々に軽減していくのが通常の経過です。しかし、皮疹が治癒した後も痛みが残る場合があり、これが帯状疱疹後神経痛となります。痛みの経過も個人差が大きく、高齢の方や、急性期の痛みが強かった方ほど、痛みが長引きやすい傾向があります。
帯状疱疹の治療中に自宅でできること・してはいけないこと
医療機関での治療と並行して、自宅での過ごし方も帯状疱疹の回復に影響します。適切なケアを行うことで、症状の緩和や合併症の予防につながります。
安静と睡眠、栄養の重要性
帯状疱疹が発症するのは、多くの場合、加齢、過労、大きなストレス、栄養失調などで体の体力と免疫力が低下している状態です[[3]]。したがって、治療期間中は無理をせず、十分な休息をとることが非常に重要です。
- 安静と睡眠: 仕事や学校は休み、体を休ませましょう。質の良い睡眠を十分に取ることで、体の免疫力が回復しやすくなります。
- 栄養バランスの取れた食事: 免疫力を高めるために、バランスの取れた食事を心がけましょう[[3]]。特に、ビタミンB群は神経の機能維持に関わるとされ、タンパク質も体力の回復に重要です。偏食を避け、消化の良いものを食べるようにしましょう。
- 水分補給: 抗ウイルス薬の服用や発熱などで水分が失われることがあります。十分な水分補給を心がけましょう。
患部のケア(冷やすのはNG)
帯状疱疹の皮疹は、適切にケアすることが大切です。
- 清潔に保つ: 患部を清潔に保つことで、細菌による二次感染を防ぐことができます。石鹸を泡立てて優しく洗い、シャワーで十分に洗い流しましょう。ただし、ゴシゴシこすらないように注意してください。
- 乾燥させすぎない: 水疱が破れたり、かさぶたになったりすると、皮膚が乾燥しやすくなります。乾燥はかゆみを引き起こしたり、治癒を遅らせる可能性があるため、医師から処方された外用薬(軟膏など)を指示通りに塗るか、刺激の少ない保湿剤で優しく保湿しましょう。
- 衣類の摩擦を避ける: 患部が衣類と擦れると、痛みが増したり、水疱が破れたりすることがあります。締め付けの少ない、ゆったりとした柔らかい素材の服を選ぶと良いでしょう。
- 患部を温めるのは〇、冷やすのは✕: 帯状疱疹の痛みには、患部を温める方が楽になるという人もいます。血行が改善することで、痛みが和らぐ可能性があります。カイロなどを直接貼るのではなく、タオルなどでくるんで使用したり、ぬるめのお風呂に浸かったりしてみましょう。
一方、患部を冷やすのは避けてください。冷やすと血行が悪化し、痛みがかえって強くなったり、神経の回復が遅れたりする可能性があります。
治療中に「してはいけないこと」
- 患部を掻く: 強いかゆみを感じることがありますが、掻いてしまうと皮膚が傷つき、細菌感染を起こしたり、痕が残りやすくなったりします。
- 水疱を自分で潰す: 水疱を潰すと、ウイルスが周囲に広がったり、細菌感染を起こしやすくなります。自然に破れるか、医療従事者に処置してもらいましょう。
- 過労や激しい運動: 体力を消耗し、免疫力を低下させてしまう可能性があります。無理せず安静に過ごしましょう。
- 飲酒・喫煙: 飲酒は血管を拡張させ、痛みを増強させたり、薬の効果に影響を与えたりする可能性があります。喫煙は血行を悪化させ、皮膚や神経の回復を妨げる可能性があります。治療期間中は控えるのが望ましいです。
- 乳幼児、妊婦、免疫力の低い人との接触: 帯状疱疹は、水痘にかかったことのない乳幼児や妊婦、免疫抑制状態にある人などに、水痘として感染させる可能性があります。皮疹が乾燥してかさぶたになるまでは、これらの人々との濃厚な接触は避けるようにしましょう。
帯状疱疹の主な合併症とその対策
帯状疱疹は、皮膚症状が治っても後遺症を残すことがあります。最も注意が必要なのは、帯状疱疹後神経痛(PHN)ですが、その他にも様々な合併症が起こりうるため、注意が必要です。
帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹後神経痛(PHN)は、帯状疱疹の皮疹の治癒後も続く痛みのこと[[4]]です。これは、帯状疱疹ウイルスによって神経が損傷されたり、神経の機能が変化したりすることで起こります。痛みは数か月から数年にわたり続き、QOL(生活の質)を低下させます[[4]]。
- どのような痛みか: PHNの痛みは非常に多様で、「焼けるような痛み」「電気が走るような痛み」「針で刺されるような痛み」「締め付けられるような痛み」などと表現されることが多いです。また、軽く触れただけで強い痛みを感じる(アロディニア)ことも特徴の一つです。
- なぜ起こるのか: ウイルスの直接的な攻撃や、炎症によって神経線維が破壊されたり、神経の興奮性が高まったりすることで発生すると考えられています。特に、痛みを伝える神経(知覚神経)が損傷を受けやすいです。
- リスク因子:
- 高齢: 帯状疱疹を発症した人の年齢が上がるほど、PHNに移行するリスクが高くなります。特に70歳以上ではリスクが顕著に上昇します。
- 急性期の痛みが強い: 皮疹が出現前の痛み、強い痛み、強い皮疹はPHNのリスク因子です[[4]]。
- 皮疹が広範囲: 皮疹が広い範囲に広がっている場合もリスクが高まります。
- 免疫力の低下: 免疫抑制状態にある人はリスクが高いとされています[[4]]。
- 治療開始が遅れる: 早期に抗ウイルス薬による治療を開始できなかった場合もリスクが高まります。
帯状疱疹後神経痛の治療法
PHNの治療は、痛みを和らげ、QOL(生活の質)を改善することが目的となります。一度PHNに移行すると治療が難しくなる場合もあるため、急性期の適切な治療が重要です。PHNの治療には、以下のような方法があります。
- 薬物療法:
- 神経障害性疼痛治療薬(プレガバリン、ミロガバリンなど)が中心的に用いられます。
- 一部の抗うつ薬(三環系抗うつ薬、SNRIなど)や抗てんかん薬も効果が期待できます。
- 弱オピオイドや強オピオイドが用いられることもあります。
- 外用薬(リドカインテープ、カプサイシンクリームなど)が併用されることもあります。
- 神経ブロック:
- ペインクリニックなどで、神経ブロック注射が行われることがあります。痛みの部位や性質に応じて、様々な種類のブロックが選択されます。
- その他の治療法:
- 物理療法(低周波治療など)、脊髄刺激療法、心理療法などが検討されることもあります。
PHNの治療は、個々の患者さんの痛みの性質、程度、全身状態に合わせて Tailor-made(個別化)で行われます。痛みを我慢せず、専門医に相談することが大切です。
その他の主な合併症
帯状疱疹は、発生した部位によってはPHN以外の合併症を引き起こす可能性があります。
- 眼合併症: 帯状疱疹が顔面、特に目の周囲(三叉神経第1枝領域)にできた場合(眼部帯状疱疹)、角膜炎、結膜炎、強膜炎、虹彩毛様体炎、外眼筋麻痺など、目のさまざまな部分に炎症や障害が起こる「眼合併症」を起こす確率が高いとされており[[2]]、視力障害や最悪の場合失明に至るリスクがあります。目の症状(まぶたの発疹、腫れのほか、眼球の充血、目の痛み、視力低下など)がある場合は、速やかに眼科を受診する必要があります[[2]]。特に、鼻部に発疹がある場合は眼合併症を起こす確率が高いとされ、注意が必要です[[2]]。
- 耳合併症(ラムゼイ・ハント症候群): 帯状疱疹が耳の周りや顔面神経に影響を及ぼした場合に起こります。耳の痛み、顔面神経麻痺(顔の片側が動かせなくなる)、難聴、耳鳴り、めまいなどの症状が現れます。この場合も早期の治療が必要です。
- 運動麻痺: 帯状疱疹が運動神経に影響を及ぼすと、手足や体幹の筋肉が麻痺することがあります。
- 脳炎・髄膜炎: 非常に稀ですが、ウイルスが脳や脊髄に広がり、脳炎や髄膜炎などの重篤な中枢神経系合併症を引き起こすことがあります。高熱、頭痛、意識障害、けいれんなどの症状が現れた場合は、緊急で医療機関を受診する必要があります。
- 細菌による二次感染: 皮膚のバリア機能が低下しているため、皮疹の部分に細菌が感染し、蜂窩織炎などを起こすことがあります。患部の痛みや腫れ、発熱などが現れます。
これらの合併症は、帯状疱疹ができた部位や患者さんの全身状態によってリスクが異なります。特に顔面や頭部にできた場合は、神経系の合併症に注意が必要です。
帯状疱疹の予防について
帯状疱疹は、加齢などによる免疫力の低下が主な原因で発症するため、日頃から免疫力を維持することが予防につながります。つまり、普段から運動をして体力を落とさない努力をしたり、過度な労働を避けたり、もし過度の労働をした場合はしっかり睡眠を取るなどして、体のメンテナンスを行うことが大切です[[3]]。また、大きなストレスになる前に対処する、栄養バランスを考えて3食しっかり食べるようなことも効果的です[[3]]。
さらに、ワクチン接種も有効な予防手段として注目されています。
免疫力の維持
日々の生活の中で、以下の点を心がけることが免疫力の維持につながります。
- 十分な睡眠: 睡眠不足は免疫力を低下させます。規則正しい生活を送り、質の良い睡眠を確保しましょう[[3]]。
- バランスの取れた食事: 偏食せず、様々な食品から栄養を摂り、特にビタミンやミネラルを意識して摂取しましょう[[3]]。
- 適度な運動: 適度な運動は血行を促進し、免疫細胞の働きを活性化させると言われています[[3]]。ただし、過度な運動はかえって体を疲れさせてしまうので注意が必要です。
- ストレス管理: ストレスは免疫力を低下させる大きな要因です[[3]]。リラックスできる時間を作ったり、趣味などで気分転換したり、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。
- 体の冷えを防ぐ: 体が冷えると血行が悪くなり、免疫機能が低下することがあります。体を温かく保つように心がけましょう。
帯状疱疹ワクチン
帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹の発症を予防したり、発症した場合でも症状を軽くしたり、特に帯状疱疹後神経痛への移行リスクを低減する効果が期待できます。現在、日本で接種可能な帯状疱疹ワクチンには、主に2種類あります。
帯状疱疹ワクチンの種類と比較
項目 | 水痘生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン) | 乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス) |
---|---|---|
ワクチンの種類 | 生ワクチン(弱毒化されたウイルス) | 不活化ワクチン(ウイルスのタンパク質成分) |
接種対象 | 50歳以上の方に任意接種として推奨 | 50歳以上の方に任意接種として推奨 18歳以上の免疫不全者なども対象 |
接種回数 | 1回 | 2回(1回目から2ヶ月間隔、遅くとも6ヶ月後までに2回目) |
帯状疱疹の発症予防効果(50歳以上) | 約50〜60% | 約97%(70歳以上でも約90%) |
PHNの発症予防効果(50歳以上) | 約50〜60% | 約91%(70歳以上でも約88%) |
効果の持続期間 | 約5年程度 | 少なくとも10年 |
副反応 | 接種部位の発赤、腫れなど(比較的軽度) | 接種部位の痛み、腫れ、発赤、筋肉痛、疲労、頭痛、発熱など(全身性の副反応がやや多い傾向) |
費用 | 比較的安価(自治体によっては助成あり) | 比較的高価 |
水痘生ワクチン:
水ぼうそうの予防に使われている生ワクチンを、帯状疱疹予防にも用いるものです。弱毒化されたウイルスを接種することで、水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫を再び活性化させます。1回の接種で済み、比較的費用も抑えられますが、効果の持続期間は限られます。
乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス):
ウイルスの成分の一部を用いて作られた不活化ワクチンです。非常に高い帯状疱疹およびPHNの発症予防効果が報告されています。2回の接種が必要で費用は高めですが、効果の持続期間が長いのが特徴です。副反応として、接種部位の痛みや腫れ、全身性の症状が出やすい傾向がありますが、通常は数日で治まります。
どちらのワクチンを選ぶかは、年齢、全身状態、免疫機能、費用、効果の持続期間などを考慮して、医師とよく相談して決めましょう。特に免疫抑制状態にある方や妊娠中の女性は、生ワクチンを接種できない場合があります。
ワクチン接種は、帯状疱疹という辛い病気を予防し、もし発症しても重症化を防ぎ、厄介なPHNのリスクを大幅に減らすための有効な手段です。50歳を過ぎたら、かかりつけ医に相談してみることをおすすめします。
まとめ:帯状疱疹は適切な治療で早期回復を目指しましょう
帯状疱疹は、水ぼうそうのウイルスが原因で起こる病気です。神経に沿った強い痛みと発疹が特徴で、特に痛みが強く、日常生活に大きな影響を与えることがあります。
帯状疱疹の治療の最も重要なポイントは、「できるだけ早く医療機関を受診し、抗ウイルス薬による治療を開始すること」です。発疹が現れてから72時間以内の治療開始が、ウイルスの増殖を抑え、症状の早期改善や帯状疱疹後神経痛(PHN)などの合併症予防につながります。
医療機関では、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬を中心に、痛みの程度に応じた痛み止め(飲み薬、外用薬、必要に応じて神経ブロック[[1]])が処方されます。これらの治療を指示通りに受けることが、回復への近道となります。
自宅では、安静にして十分な睡眠と栄養を摂り、免疫力の回復を促しましょう[[3]]。患部のケアも大切ですが、冷やすのは避け、優しく清潔に保つようにしてください。
また、帯状疱疹は予防することも可能です。日頃からの免疫力維持に加えて[[3]]、帯状疱疹ワクチンの接種は、発症予防や重症化予防、PHN予防に非常に有効です。50歳以上の方は、かかりつけ医に相談してワクチン接種を検討してみましょう。
帯状疱疹の症状は個人差が大きく、治療期間や痛みの経過も様々です。不安なことや気になる症状があれば、自己判断せずに必ず医師に相談してください。適切な治療を早期に開始し、辛い症状からの回復と合併症の予防を目指しましょう。
引用元
- [[1]] 兵庫医科大学病院 – 帯状疱疹
- [[2]] 済生会 – 眼部帯状疱疹
- [[3]] 公益財団法人長寿科学振興財団 – 帯状疱疹の症状・原因・予防・治療について
- [[4]] 痛み.net – 帯状疱疹後神経痛のリスクファクターに関する考察
免責事項: この記事は帯状疱疹に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の治療法を推奨したり、医療行為の代わりとなるものではありません。個々の症状や治療については、必ず医療機関で医師の診察を受け、適切な診断と治療方針の決定を行ってください。提供された情報は、執筆時点での一般的な医学的見解に基づいています。