指先のズキズキ、それひょう疽かも?原因・症状・治し方【皮膚科解説】

指先にズキズキとした痛みや腫れが生じ、「これって何だろう?」と不安に感じている方もいらっしゃるかもしれません。
その症状は、もしかすると「ひょう疽(ひょうそ)」と呼ばれる化膿性の炎症かもしれません。
指先にできることの多いひょう疽は、一見軽症に見えても、放置すると痛みが強くなったり、思わぬ合併症を引き起こしたりすることもあります。
この記事では、ひょう疽の原因、症状、効果的な治療法、そしてご自身でできる予防策まで、皮膚科医の視点も踏まえながら詳しく解説します。
適切な知識を身につけ、早期の対処につなげましょう。

ひょう疽とは?爪周囲炎との違い

ひょう疽(ひょうそ)は、主に指の爪の周りや指先にできる細菌感染による炎症性の病気です。
医学的には「爪周囲炎(そうしゅういえん)」と呼ばれることが多く、ひょう疽と爪周囲炎はほぼ同じ状態を指すことが一般的です。

この炎症は、爪の根元や側面の皮膚に、目に見えないほどの小さな傷や亀裂ができたところに細菌が入り込むことで発生します。
特に、手指は日常生活で最も頻繁に使用され、物に触れたり、水に濡れたりするため、傷ができやすく、細菌が付着しやすい環境にあります。
また、指先の皮膚や爪の構造はデリケートであり、少しの刺激でも炎症を起こしやすいことも、ひょう疽ができやすい理由の一つです。

ひょう疽は、急性の場合と慢性の場合があります。
急性のひょう疽は、細菌感染によって急激に発症し、強い痛みや腫れを伴います。
一方、慢性のひょう疽は、カンジダなどの真菌(カビ)や、物理的な刺激(水仕事、洗剤など)、アレルギーなどが原因で、比較的ゆっくりと、しかし長期間にわたって炎症が続くタイプです。
この記事では、主に細菌感染による急性のひょう疽について詳しく解説していきます。

ひょう疽の原因と感染経路

ひょう疽の主な原因は、皮膚の常在菌である細菌、特に黄色ブドウ球菌化膿レンサ球菌といった化膿性の細菌が、皮膚のバリア機能が低下した部分から体内に侵入することです。

細菌が侵入する「皮膚の傷」は、非常に小さなものでも十分にリスクとなります。
具体的には、以下のような状況がひょう疽の原因となりやすいです。

  • ささくれをむしる: 指先の皮膚が剥がれた「ささくれ」を無理に引っ張ったり、むしったりすると、小さな傷口ができて細菌が侵入しやすくなります。
  • 爪切りでの失敗: 爪を切る際に深爪をしすぎたり、誤って皮膚を切ってしまったりすることで、傷ができます。
  • 爪を噛む・指しゃぶり: 爪を噛む癖がある方や、お子さんの指しゃぶりなども、指先の皮膚に傷をつけたり、細菌を運び込んだりする原因となります。
  • 巻き爪や陥入爪: 爪が皮膚に食い込む巻き爪や陥入爪がある場合、その部分が常に刺激され、小さな傷や炎症が生じやすくなります。ここから細菌感染が起こり、ひょう疽につながることがあります。
  • 小さな切り傷や刺し傷: 紙で切った、棘が刺さったなど、日常生活で起こる様々な小さな傷も、細菌の侵入経路となります。
  • 手荒れや乾燥: 手の皮膚が乾燥してひび割れたり、あかぎれになったりしている状態は、皮膚のバリア機能が低下しており、細菌が侵入しやすい状態です。
  • 水仕事が多い: 水に長時間触れると皮膚の表面のバリアが弱まり、細菌が侵入しやすくなります。特に洗剤を使用する場合はさらにリスクが高まります。
  • 免疫力の低下: 糖尿病、アトピー性皮膚炎、ステロイド薬の使用、高齢など、免疫力が低下している状態では、感染に対する抵抗力が弱まるため、ひょう疽にかかりやすくなったり、重症化しやすくなったりします。

このように、ひょう疽は様々な要因で生じる皮膚の小さな傷が原因となり、そこに細菌が感染することで発症する病気です。

ひょう疽は人から人へ感染する?

ひょう疽の原因菌である黄色ブドウ球菌などは、多くの人の皮膚や鼻の中に常在している細菌です。
そのため、完全に避けることは難しい細菌と言えます。

ひょう疽自体が、風邪のように咳やくしゃみで広がるような感染症ではありません。しかし、患部に直接触れることによって、原因となる細菌が別の人の手に付着し、その人の手に傷があれば感染が起こる可能性はあります

特に、患部から膿が出ているような状態の場合、膿の中には大量の細菌が含まれています。
この膿に直接触れた手で、別の人の傷口に触れたり、自分の別の指の傷口に触れたりすると、感染が広がるリスクがあります。

家庭内などでひょう疽の方がいる場合は、以下の点に注意することで感染リスクを減らすことができます。

  • 患部に直接触れない: 患部を触る際は手袋を使用するか、触った後は必ず石鹸で手を洗いましょう。
  • 傷口を保護する: 患部を清潔なガーゼや絆創膏でしっかり覆い、露出させないようにしましょう。
  • タオルや石鹸の共有を避ける: 患部を拭いたタオルや、共用の石鹸などを介して細菌が付着する可能性があります。
  • 手洗いを徹底する: 特に小さいお子さんや高齢者など、免疫力が低下している方がいる家庭では、こまめな手洗いが重要です。

健康な皮膚であれば、通常は細菌が付着してもすぐに感染するわけではありませんが、小さな傷や乾燥がある場合は注意が必要です。
過剰に恐れる必要はありませんが、基本的な衛生管理を心がけることが大切です。

ひょう疽の初期症状と進行

ひょう疽は、発症すると段階的に症状が進行していくことが一般的です。
初期の段階で気づき、適切な処置を行うことが、症状の悪化を防ぎ、早期回復につながります。

ひょう疽の初期症状は、爪の周りの皮膚に軽い赤みと腫れ、そして触れたときの軽い痛みや違和感として現れることが多いです。
この段階では、「少し指先が痛いな」「何か刺さったかな?」程度にしか感じないこともあります。
見た目もわずかに赤く腫れている程度で、あまり目立たないかもしれません。

しかし、細菌が組織内で増殖するにつれて炎症が強くなり、症状は進行します。

ひょう疽の痛みの特徴

ひょう疽の痛みは、その特徴の一つです。
初期の軽い痛みから始まり、炎症が進むにつれて痛みの性質が変わってきます。

多くの場合、ひょう疽の痛みは「ズキズキとした」「拍動性の」痛みとして感じられます。
これは、炎症によって血管が拡張し、患部に血液が多く流れる際に、脈拍に合わせて痛みが強くなるためです。
安静にしていても痛みが続くことが多く、特に夜間に痛みが強くなる傾向があります。
これは、横になると指先への血流が増えることなどが関係していると考えられます。

痛みが増してくると、指を軽くぶつけたり、物に触れたりするだけでも強い痛みが走るようになります。
この痛みのため、日常生活に支障が出たり、眠れなくなったりすることもあります。

腫れや赤み、膿の状態

痛みの増強とともに、赤み腫れも顕著になってきます。
爪の周囲全体、あるいは指の腹側や指先にまで赤みや腫れが広がることもあります。
患部を触ると熱感を伴っていることも多く、炎症が活発に起きていることを示しています。

炎症がさらに進行し、細菌と戦った白血球の死骸などが溜まると、膿(うみ)が形成されます。
膿は通常、白っぽい、あるいは黄色っぽい液体で、患部の中央や、赤く腫れた部分の最も柔らかい部分に透けて見えることがあります。
触るとプヨプヨとした感触があり、押すと痛みが強くなることもあります。

膿が溜まった状態を放置すると、膿の袋(膿瘍)が大きくなり、周囲の組織を圧迫するため、痛みがさらに激しくなります。
見た目にも、指先が大きく腫れあがり、皮膚の下に白い膿が見えるようになります。

進行するとどうなる?リンパ管炎

ひょう疽を放置し、適切な治療を行わないと、炎症はさらに周囲の組織に広がっていきます。
膿が指の奥深くまで進行したり、骨や腱にまで達したりするリスクも生じます。

また、細菌や炎症物質がリンパ管を通って体内に広がることもあります。
これにより、リンパ管炎(りんぱかんえん)リンパ節炎(りんぱせつえん)を引き起こすことがあります。

リンパ管炎は、炎症が起きた部位からリンパ管に沿って、赤く筋状の線が見えるようになる状態です。
指のひょう疽の場合、指から腕にかけて赤い線が現れることがあります。
リンパ節炎は、細菌や炎症物質が流れ着いたリンパ節が腫れて痛みを伴う状態です。
指のひょう疽の場合は、主に脇の下(腋窩)のリンパ節が腫れて痛みを感じることが多いです。

リンパ管炎やリンパ節炎は、炎症が全身に広がり始めている兆候であり、さらに進行すると敗血症(はいけつしょう)という、全身に菌が回る非常に危険な状態に陥る可能性もゼロではありません(ただし、これは稀なケースです)。

このように、ひょう疽は初期症状を見逃さず、痛みが強くなったり、腫れが大きくなったり、膿が見えるようになったりしたら、できるだけ早く医療機関を受診することが非常に重要です。

ひょう疽の治療法と治し方

ひょう疽の治療は、症状の進行度合いによって異なります。
軽症であれば抗菌薬の内服や外用薬で改善しますが、膿が溜まっている場合は切開して膿を出す処置が必要となることがあります。

ひょう疽は自分で治せる?自己処置の危険性

「ちょっと痛いだけだから」「市販薬で様子を見よう」と考えて、ひょう疽を自分で治そうとする方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、ひょう疽の自己処置は非常に危険であり、原則として推奨できません

その理由としては、以下の点が挙げられます。

  • 診断の遅れ: 自己判断では、本当にひょう疽なのか、あるいは他の病気(例えばヘルペス性ひょう疽など)なのかを正確に診断できません。誤った対処をすることで、症状が悪化したり、治癒が遅れたりします。
  • 感染の悪化: 自分で針やメスなどを使って膿を出そうとすると、かえって傷口を広げてしまい、さらに細菌感染を悪化させる可能性があります。また、使用する器具が滅菌されていなければ、新たな細菌を運び込むリスクもあります。
  • 耐性菌の発生: 市販の抗菌薬軟膏を自己判断で使用したり、用法・用量を守らずに使用したりすると、原因菌に薬剤への耐性ができてしまい、本来効くはずの抗菌薬が効かなくなる「耐性菌」を発生させるリスクがあります。
  • 合併症のリスク増加: 自己処置で治らないまま放置すると、前述したように骨髄炎や腱鞘炎、敗血症などの重篤な合併症を引き起こすリスクが高まります。

したがって、ひょう疽が疑われる症状が現れたら、自己判断で処置をせず、できるだけ早く医療機関を受診することが賢明です。

医療機関での治療(切開、抗菌薬など)

医療機関(主に皮膚科)では、診察によってひょう疽の診断を行い、症状の程度に合わせて適切な治療が選択されます。

  • 軽症の場合: 赤みや腫れ、痛みが主な症状で、まだ膿が溜まっていない初期の段階であれば、主に抗菌薬(抗生物質)の内服抗菌薬の塗り薬(外用薬)が処方されます。細菌の増殖を抑え、炎症を鎮めることが目的です。医師の指示通りに、処方された薬を最後まで飲み切ったり、塗り続けたりすることが非常に重要です。症状が改善しても、自己判断で服薬や塗布を中止すると、細菌が完全に死滅せず、再発したり耐性菌ができたりするリスクがあります。
  • 膿が溜まっている場合: 腫れが強く、皮膚の下に膿がはっきりと見えたり、触ると柔らかく膿が溜まっていることが確認できたりする場合は、切開(せっかい)して膿を出す処置が必要になります。これは、膿を体外に出すことで、痛みを劇的に軽減させ、治癒を早めるための重要な処置です。局所麻酔をかけてから、メスなどを使って皮膚を小さく切開し、溜まった膿を押し出したり、自然に流れ出させたりします。切開後は、傷口を清潔に保つためにガーゼ交換などの処置が必要になります。通常、切開後は痛みが和らぎ、速やかに回復に向かうことが多いです。
  • 痛みが強い場合: 痛みが強い場合には、痛み止め(鎮痛剤)が処方されることもあります。
  • 重症の場合: 炎症が広範囲に及んでいる場合や、リンパ管炎などを併発している場合は、入院して点滴による抗菌薬治療が必要となるケースもあります。

治療期間は症状の程度によりますが、軽症であれば数日から1週間程度、切開が必要な場合は切開後数日から1週間程度で症状が落ち着くことが多いです。
ただし、完全に治癒するまでにはもう少し時間がかかる場合もあります。
医師の指示に従って、適切に治療を継続することが大切です。

ひょう疽に効く薬の種類(飲み薬・塗り薬)

ひょう疽の治療に用いられる主な薬剤は、細菌感染を抑えるための抗菌薬です。
飲み薬と塗り薬があり、症状や原因菌の種類によって使い分けられます。

飲み薬(内服薬)

ひょう疽の原因菌は、黄色ブドウ球菌などが多いため、これらの細菌に効果のある抗菌薬が処方されます。
具体的な薬剤の種類は医師が判断しますが、一般的には以下のような種類の抗菌薬が使用されます。

  • ペニシリン系抗菌薬
  • セフェム系抗菌薬
  • マクロライド系抗菌薬
  • テトラサイクリン系抗菌薬
  • キノロン系抗菌薬

これらの飲み薬は、体の内側から細菌の増殖を抑え、炎症を鎮める効果があります。
処方された薬は、症状が改善しても自己判断で中断せず、医師から指示された期間、用法・用量を守って最後まで飲み切ることが非常に重要です。途中でやめてしまうと、細菌が完全に死滅せず、再発したり、薬剤に耐性を持った細菌が増殖したりするリスクが高まります。

塗り薬(外用薬)

塗り薬としては、抗菌成分を含む軟膏やクリームが使用されます。

  • フシジン酸ナトリウム
  • ゲンタマイシン
  • ムピロシン
  • オフロキサシン など

これらの塗り薬は、患部の細菌を直接抑えることを目的として使用されます。
軽症の場合に単独で使用されることもありますが、多くの場合、飲み薬と併用して治療効果を高めるために用いられます。
患部を清潔にした後に、指示された回数、塗布します。

飲み薬と塗り薬の比較

薬剤の種類 主な効果 適応症状 特徴
飲み薬 体全体に作用し、細菌の増殖を内側から抑える 症状が進行している場合、膿がある場合、炎症範囲が広い場合 全身作用があり効果が強いが、医師の処方が必須。飲み切る必要がある。
塗り薬 患部の細菌を直接抑える、局所的な炎症を抑える 軽症の場合、飲み薬との併用 局所的な効果。比較的安全だが、深部の感染には効果が限定的。

どちらの薬が適しているかは、個々の症状や進行度合いによって医師が判断します。
自己判断で薬を選ぶのではなく、必ず医師の診断に基づき、適切な薬剤の処方を受けるようにしてください。

ひょう疽への市販薬について

ひょう疽の初期症状によく似た症状に対して、薬局やドラッグストアで市販されている抗菌成分を含む軟膏などを使用することを検討される方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、市販薬によるひょう疽の治療は、推奨されません

市販されている抗菌薬軟膏の中には、有効成分としてポリミキシンB、バシトラシン、フラジオマイシンなどが含まれているものがあります。
これらは、一部の細菌に対して効果がある成分ですが、ひょう疽の主な原因菌である黄色ブドウ球菌などに対して、医療用医薬品と同等の効果があるとは限りません

また、市販薬の使用によって以下のようなリスクが生じます。

  • 効果が不十分な場合: 市販薬では細菌を完全に死滅させられず、症状が改善しないまま時間が経過し、かえって症状が悪化したり、治療開始が遅れたりする可能性があります。
  • 原因菌に合わない場合: 市販薬の抗菌成分は、すべての細菌に効果があるわけではありません。ひょう疽の原因菌に効かない成分が含まれている場合、全く効果が得られません。
  • 自己判断による誤った使用: 症状が見た目で改善したからといって使用を中止したり、逆に効果がないからと大量に使用したりすることは、耐性菌の発生リスクを高めたり、皮膚トラブルを引き起こしたりする可能性があります。
  • 隠れた病気の見落とし: 症状がひょう疽ではなく、他の原因(カビやウイルスなど)によるものだった場合、市販の抗菌薬を使用しても効果がなく、正しい治療が遅れてしまうことになります。

したがって、ひょう疽が疑われる症状が現れたら、市販薬で様子を見るのではなく、必ず医療機関を受診し、医師の診断を受けて適切な治療薬を処方してもらうことが最も安全で確実な治し方です。

自宅でのケア方法

医療機関での治療と並行して、自宅での適切なケアを行うことで、治癒を促進し、症状の緩和を図ることができます。

  • 患部を清潔に保つ: 患部を清潔に保つことが非常に重要です。優しく石鹸の泡で洗うなどして清潔にしましょう。ただし、ゴシゴシ洗ったり、強くこすったりするのは避けましょう。
  • 患部を濡らさない: 患部が濡れると細菌が繁殖しやすくなります。水仕事やお風呂に入る際は、患部を絆創膏などでしっかり保護し、濡れないように注意しましょう。
  • 安静にする: 患部の指を使わないように心がけ、安静にすることが大切です。指を酷使すると、炎症が悪化したり、痛みが強くなったりすることがあります。
  • 保護する: 患部を清潔なガーゼや絆創膏で覆うことで、外部からの刺激や汚れを防ぎ、細菌の付着を防ぐことができます。ただし、通気性の悪いものは避け、蒸れないように注意しましょう。
  • 保温・保湿: 冷えは血行を悪化させ、治癒を遅らせる可能性があります。患部を冷やしすぎないように注意しましょう。ただし、炎症が強い時期に温めすぎると、かえって痛みや腫れが悪化することもあるため、熱感がある場合は無理に温めないようにしてください。また、治癒過程では皮膚が乾燥しやすくなるため、患部以外も含めて手指全体の保湿を心がけましょう。
  • 自己判断での膿出しはしない: 膿が溜まっている場合でも、自分で潰したり、針などで穴を開けたりすることは絶対にやめましょう。感染を悪化させたり、治癒を遅らせたりする原因となります。膿出しは必ず医療機関で行う必要があります。

これらの自宅ケアは、あくまで医療機関での治療をサポートするためのものです。
自己判断で治療を中断したり、自宅ケアだけで済ませたりせず、必ず医師の指示に従って治療を進めてください。

ひょう疽は何科を受診すべきか

ひょう疽の症状が出た場合、まず受診すべきは「皮膚科」です。
皮膚科医は、皮膚や爪の専門家であり、ひょう疽の診断や治療に最も適しています。
症状の観察、必要に応じて細菌検査などを行い、適切な飲み薬や塗り薬の処方、膿が溜まっている場合の切開処置などを専門的に行います。

ただし、以下のような場合は、状況に応じて他の科も選択肢に入ることがあります。

  • 痛みが非常に強く、すぐに処置が必要な場合: 夜間や休日で皮膚科が開いていない場合や、痛みが激しく日常生活に大きな支障が出ている場合は、救急外来を受診することも検討できます。救急外来では、応急処置として切開排膿などを行ってもらえる可能性があります。
  • 骨や関節、腱にまで感染が疑われる場合: 症状が重く、指の動きが悪くなったり、骨の痛みが強かったりするなど、炎症が骨や関節、腱にまで及んでいる可能性がある場合は、整形外科を受診することも考えられます。整形外科では、レントゲン検査などで骨や関節の状態を確認し、必要に応じて手術的な治療を行うことがあります。
  • 明らかな外傷が原因の場合: 大きな傷口から感染した場合など、外傷が原因で炎症が起きている場合は、外科を受診することも選択肢の一つです。

一般的には、まずは皮膚科を受診するのが最も適切です。
迷う場合は、かかりつけ医に相談するか、地域の救急医療情報センターなどに問い合わせて指示を仰ぐと良いでしょう。
自己判断せず、早めに専門医の診察を受けることが、早期回復のために最も重要です。

ひょう疽を放置するとどうなる?合併症のリスク

ひょう疽は、適切な治療を行えば比較的早期に改善することが多い病気ですが、放置すると様々な合併症を引き起こすリスクがあります。
これらの合併症は、痛みを長引かせるだけでなく、指の機能障害や、さらに重篤な全身性の感染症につながる可能性もあります。

ひょう疽を放置した場合に起こりうる主な合併症は以下の通りです。

  • 症状の悪化: 放置すればするほど、炎症は広がり、痛み、腫れ、赤みがひどくなります。膿が溜まる範囲も拡大し、指全体に及ぶこともあります。
  • 骨髄炎(こつずいえん): 炎症が指の骨にまで達し、骨が細菌に感染する状態です。強い痛みや発熱を伴い、骨の破壊が進むと指の機能に永続的な障害が残る可能性があります。治療には長期の抗菌薬投与や手術が必要になることもあります。
  • 腱鞘炎(けんしょうえん): 指を動かす腱や、それを覆う腱鞘に炎症が広がる状態です。指を曲げ伸ばしする際に痛みが生じたり、指の動きが悪くなったりします。
  • 関節炎(かんせつえん): 指の関節に炎症が広がる状態です。関節の腫れや痛み、動きの制限が生じます。
  • リンパ管炎・リンパ節炎: 前述の通り、細菌や炎症物質がリンパ管を通って広がり、腕に赤い筋が見えたり、脇の下のリンパ節が腫れたりします。
  • 敗血症(はいけつしょう): 非常に稀ではありますが、原因菌が血流に乗って全身に広がり、多臓器不全などを引き起こす生命にかかわる重篤な状態です。発熱、悪寒、血圧低下などの症状が現れます。免疫力が著しく低下している方などでリスクが高まります。
  • 慢性化: 急性炎症が治まらず、ダラダラと炎症が続いたり、治っても繰り返し再発したりすることがあります。慢性化すると、爪の変形や肥厚、色の変化などが生じやすくなります。
  • 爪の変形や脱落: 爪の根元(爪母)まで炎症が及ぶと、新しい爪を作る機能が障害され、爪が波打ったり、厚くなったり、割れやすくなったりといった変形が生じることがあります。ひどい場合は、爪が剥がれてしまう(脱落)こともあります。
  • 瘢痕(はんこん)形成: 炎症がひどかったり、切開処置が広範囲に及んだりした場合、治癒後に傷跡(瘢痕)が残ることがあります。

このように、ひょう疽は放置すると単なる指先の痛みや腫れに留まらず、重篤な合併症を引き起こす可能性がある病気です。
「たかが指先」と軽視せず、異常を感じたらすぐに医療機関を受診することが、これらのリスクを避けるために最も重要です。

ひょう疽の予防方法

ひょう疽は、多くの場合、皮膚の小さな傷から細菌が侵入することで起こります。
したがって、予防のポイントは、手指に傷を作らないことと、手指を清潔に保つことです。

具体的な予防方法としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 手指を清潔に保つ:
    • 外出から帰った時や、食事の前など、こまめに石鹸を使った丁寧な手洗いを心がけましょう。
    • 手に傷がある場合は、特に丁寧に洗い、細菌が付着するのを防ぎましょう。
    • アルコール消毒も有効ですが、手荒れの原因にもなるため、石鹸での手洗いが基本です。
  • 爪のケアを適切に行う:
    • 正しい爪切りを行いましょう。深爪をせず、爪の角を丸く整えることで、爪が皮膚に食い込む(陥入爪)のを防ぎます。爪切りの道具は清潔に保ちましょう。
    • ささくれは無理にむしらず、清潔な爪切りやハサミで根本から丁寧に切り取りましょう。
    • 爪を噛む癖指しゃぶりは、指先の皮膚を傷つけ、細菌を運び込む原因となるため、できるだけやめるように努めましょう。
  • 傷を放置しない:
    • 指先に小さな切り傷や刺し傷ができた場合は、すぐに消毒し、清潔な絆創膏やガーゼで覆って保護しましょう。傷口を乾燥させすぎず、湿潤環境を保つことで治癒が早まるという考え方もありますが、細菌感染が懸念される場合はまずは清潔第一です。
    • 炊事や洗濯など、水仕事をする際は、傷がある部分は特に注意して、ゴム手袋などを使用して患部が濡れないようにしましょう。
  • 手荒れや乾燥を防ぐ:
    • 手荒れは皮膚のバリア機能を低下させ、細菌が侵入しやすくなります。ハンドクリームなどでこまめに保湿し、手指の乾燥を防ぎましょう。特に冬場や水仕事の後には丁寧な保湿が効果的です。
  • 巻き爪・陥入爪の対策:
    • 巻き爪や陥入爪がある方は、皮膚への食い込みを軽減するためのテーピングや、専門医による治療を受けるなど、適切な対策を行いましょう。
  • 基礎疾患の管理:
    • 糖尿病など、免疫力が低下する基礎疾患がある方は、かかりつけ医と相談しながら病状をしっかり管理することが、感染症予防につながります。

これらの予防策を日頃から実践することで、ひょう疽の発生リスクを減らすことができます。
万が一、ひょう疽のような症状が現れた場合は、自己判断せず、早期に医療機関を受診するようにしましょう。

【まとめ】ひょう疽は放置せず、早期受診が大切

ひょう疽(爪周囲炎)は、指先の爪の周りや指先にできる細菌感染による炎症です。
ささくれ、深爪、小さな傷などをきっかけに細菌が侵入し、赤み、腫れ、ズキズキとした強い痛みを引き起こします。
進行すると膿が溜まり、さらに痛みが強くなるだけでなく、放置すると骨髄炎や腱鞘炎、リンパ管炎といった合併症を引き起こすリスクもあります。

ひょう疽が疑われる症状が現れたら、「そのうち治るだろう」「自分でどうにかしよう」と自己判断で市販薬を使ったり、膿を自分で出そうとしたりすることは危険です。
かえって症状を悪化させたり、治癒を遅らせたりする可能性があります。

最も重要なのは、早期に医療機関(主に皮膚科)を受診することです。
医師による適切な診断を受け、症状の程度に合わせて抗菌薬の内服や塗り薬、膿が溜まっている場合には切開排膿といった処置を受けることで、速やかに症状を改善させることができます。

日頃からの予防も大切です。
手指を清潔に保ち、爪のケアを適切に行い、小さな傷でも放置せずに保護することで、ひょう疽の発生リスクを減らすことができます。

もし指先にひょう疽のような症状が現れたら、この記事で解説した情報を参考に、勇気を出して早めに医療機関を受診してください。
適切な治療とケアで、つらい痛みから解放され、一日も早く健康な指先を取り戻しましょう。


免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、医学的なアドバイス、診断、治療に代わるものではありません。
個々の症状については、必ず医師やその他の医療専門家にご相談ください。
本記事の情報に基づいて行った行為によって生じたいかなる損害についても、当方は一切責任を負いません。