メトホルミンを1日2回飲む理由は? 副作用・正しい飲み方・注意点

メトホルミンは、2型糖尿病の治療において世界的に広く使用されているお薬です。血糖値を下げる効果があり、適切に使用することで糖尿病の管理に役立ちます。メトホルミンの服用方法は患者さんの状態によって異なりますが、1日に2回や3回に分けて服用することが一般的です。特に「メトホルミンを1日2回飲むのはなぜ?」と疑問に思っている方もいるかもしれません。この記事では、メトホルミンが1日2回処方される主な理由や、一般的な用法・用量、服用に関する注意点について詳しく解説します。メトホルミンを服用されている方、これから服用する可能性がある方は、ぜひ参考にしてください。

メトホルミンが1日2回処方される主な理由

メトホルミンが1日に複数回、特に2回に分けて処方されるのには、主に二つの重要な理由があります。これらは、お薬の効果を最大限に引き出しつつ、副作用を最小限に抑えるために考慮されています。

血糖コントロールを持続させるため

メトホルミンは、主に以下のメカニズムで血糖値を下げます。

  • 肝臓での糖新生(糖を作る働き)を抑制する:
    これにより、肝臓が血液中に放出するブドウ糖の量を減らします。
  • 筋肉や脂肪組織でのブドウ糖の取り込みを促進する:
    インスリンの働きを助け、血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれやすくなります。
  • 腸管からのブドウ糖の吸収を遅らせる:
    食事で摂取したブドウ糖が急激に血液中に取り込まれるのを抑えます。

これらの効果は、お薬を服用してから一定時間持続します。メトホルミンを1日1回だけ高用量で服用するよりも、1日を通して複数回に分けて服用することで、血中のお薬の濃度を比較的安定させ、上記の効果をより持続的に発揮させることが期待できます。
特に、食事によって血糖値が上昇しやすいタイミングに合わせて服用することで、食後の急激な血糖上昇(ポストプラント血糖)を抑える効果が得られやすくなります。例えば、朝食後と夕食後のように1日2回に分けて服用することで、午前中から午後、そして夜間にかけての血糖コントロールをサポートする狙いがあります。

副作用(消化器症状)を軽減するため

メトホルミンの主な副作用の一つに、吐き気、下痢、腹痛、食欲不振などの消化器症状があります。これらの副作用は、特に服用を開始したばかりの頃や、一度に高用量を服用した場合に起こりやすい傾向があります。
メトホルミンの量を少量から開始し、患者さんの体の状態を見ながら徐々に増やしていくこと(タイトレーション)が推奨されています。そして、増やした量を1日に複数回に分けて服用することで、一回の服用量を少なくし、消化器への負担を軽減することができます。
例えば、1日の総用量が1000mgの場合、一度に1000mg服用するよりも、朝食後に500mg、夕食後に500mgのように2回に分ける方が、消化器症状が出にくいと考えられています。これは、体がお薬に慣れていく期間でもあり、副作用を最小限に抑えながら、徐々に効果的な用量に到達させるための重要な戦略です。

服用タイミングと回数の関連性

メトホルミンの服用回数やタイミングは、その作用時間、副作用の発現リスク、そして患者さんのライフスタイルや食事パターンを考慮して医師が決定します。
一般的なメトホルミン(速放錠)の場合、服用後数時間で血中濃度がピークに達し、効果が持続します。このため、食事のタイミングに合わせて1日2回や3回に分けて服用することで、食後の血糖上昇を効果的に抑えつつ、次の食事までの間の血糖値もある程度コントロールすることができます。
また、消化器症状の軽減という観点からも、1日の総用量を分割して服用する方が望ましい場合が多く、結果として1日2回または3回という服用方法が一般的になります。ただし、製剤の種類によっては血中濃度がゆっくりと維持される徐放錠もあり、患者さんの状態や医師の判断によっては1日1回の服用が選択されることもあります。例えば、ある研究では、2型糖尿病患者においてメトホルミン徐放錠を1日1回服用することの有効性や安全性が検討されています([出典:2 型糖尿病患者におけるメトホルミン 1 日 1 回内服の有効性 と安全性](https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/62/9/62_493/_pdf))。
患者さん一人ひとりの血糖値の変動パターン、腎機能の状態(メトホルミンは腎臓から排泄されるため、腎機能が低下している場合は用量調整が必要)、他の病気の有無、併用薬、そして食事や生活リズムなど、様々な要因が考慮され、最適な服用回数やタイミングが決定されます。

メトホルミンの一般的な用法・用量

メトホルミンの用法・用量は、患者さんの状態や治療目標によって個別に調整されます。医師は、糖尿病の診断を受けたばかりの患者さんから、他の治療薬と併用している患者さんまで、それぞれの状況に応じて最適な用量を判断します。

開始用量と維持用量

メトホルミンを初めて服用する場合、通常は少ない量から開始されます。これは、前述のように消化器症状などの副作用を軽減し、体が徐々にお薬に慣れるようにするためです。
例えば、成人では、1日500mgまたは750mg(徐放錠の場合)から開始し、1日1回または2回に分けて服用することが多いです。
その後、患者さんの血糖コントロールの状況や副作用の有無を見ながら、数週間ごとに用量を段階的に増やしていくのが一般的な流れです。この増やしていく過程を「タイトレーション」と呼びます。
目標とする血糖値に到達し、副作用も問題ない状態になったら、その用量を維持量として継続して服用します。維持量は患者さんによって異なりますが、通常は1日500mg~1500mgの範囲内で、1回または複数回(主に2回または3回)に分けて服用されます。

1日の最大用量と分割

日本の添付文書では、メトホルミンの1日の最大用量は成人で2250mgと定められています。(製剤の種類や国によっては最大用量が異なる場合もあります。)
この1日の最大用量を一度に服用することは推奨されません。効果の持続や副作用軽減の観点から、1日の総用量を複数回に分割して服用します。例えば、1日1500mgを服用する場合、朝食後に750mg、夕食後に750mgのように2回に分ける方法や、朝食後、昼食後、夕食後に500mgずつ3回に分ける方法などがあります。多くの場合、1日の総用量は複数回に分割されますが、特に徐放錠においては、1日1回の服用でも効果や安全性が確認されている場合があり、患者さんの服薬アドヒアランス向上に繋がる選択肢となることもあります([参考:2 型糖尿病患者におけるメトホルミン 1 日 1 回内服の有効性 と安全性](https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/62/9/62_493/_pdf))。
どのタイミングで何回に分けるかは、患者さんの食事パターン、血糖変動パターン、そして医師の判断によります。例えば、朝食後の血糖上昇が大きい場合は朝の用量を増やしたり、昼食をきちんと摂る習慣がある場合は昼にも服用したりするなど、柔軟に対応されます。
重要なのは、医師から指示された用法・用量を守り、自己判断で用量を変更したり、服用回数を減らしたり増やしたりしないことです。特に、用量を増やす際には必ず医師の指示に従い、副作用の出現に注意しながら慎重に行う必要があります。

メトホルミンを食後に服用することが多い理由

メトホルミンの服用タイミングは、製品の種類(速放錠か徐放錠か)や患者さんの状態によって医師が指示しますが、特に速放錠の場合は「食後」に服用することが多いとされています。これには、主に二つの理由があります。

食後服用による副作用の軽減

メトホルミンの主な副作用である消化器症状(吐き気、下痢、腹痛など)は、空腹時に服用したり、一度に多量のメトホルミンが胃腸に到達したりすることで起こりやすいと考えられています。
食事と一緒に、または食事の直後にメトホルミンを服用することで、お薬が胃の中で食物と混ざり合い、胃腸への刺激を和らげることができます。これにより、副作用である消化器症状の発現リスクを軽減することが期待できます。特に、メトホルミンの服用を開始したばかりの時期や、用量を増やした際に消化器症状が出やすい方にとって、食後服用は重要なポイントとなります。
また、食後に服用することで、食事によって上昇する血糖値に対して効果的に作用させることができます。メトホルミンは腸管からのブドウ糖吸収を遅らせる作用もあるため、食後すぐに服用することで、この作用による食後血糖値の上昇抑制効果も得やすくなります。

飲み忘れを防ぐための工夫

糖尿病治療薬は、毎日の生活の中で規則正しく服用することが、安定した血糖コントロールにとって非常に重要です。メトホルミンを食後に服用するという指示は、「食事をする」という日常的な習慣と結びつけることで、飲み忘れを防ぐための工夫でもあります。
例えば、「朝食後に飲む」「夕食後に飲む」というように、具体的な行動(食事)と結びつけておくことで、薬を飲むタイミングを忘れにくくなります。これは、患者さん自身が治療を継続しやすくするための、服薬アドヒアランス(患者さんが積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)向上のための重要なポイントです。
ただし、患者さんのライフスタイルや食事のパターンは様々です。規則的な食事を摂らない方や、決まった時間に食事が難しい方の場合、食後服用を厳守することがかえって負担になることもあります。そのような場合は、医師や薬剤師に相談し、ご自身の生活リズムに合った服用タイミングや工夫についてアドバイスを受けることが大切です。徐放錠の場合は、血中濃度がゆっくりと上昇・維持されるため、食事との関連性が速放錠ほど重要ではない場合もありますが、いずれにしても医師の指示に従うことが最も重要です。

メトホルミン服用に関する注意点

メトホルミンは安全性が高く、効果的な糖尿病治療薬ですが、いくつかの注意点があります。特に、服用タイミングや食事との関連、飲み忘れ時の対応については、事前に医師や薬剤師から十分な説明を受け、理解しておくことが重要です。

食事をしない場合の対応

メトホルミン、特に速放錠は、食後の服用が推奨されることが多いですが、「食事を摂らなかった場合、薬はどうすればいいのか?」という疑問が生じることがあります。
一般的に、メトホルミンは血糖降下作用がありますが、単独で重篤な低血糖を引き起こすことは稀です。しかし、食事を摂らないままメトホルミンを服用すると、食後の血糖上昇を抑える必要がない状況で薬が作用することになり、血糖値が下がりすぎるリスクが高まる可能性がゼロではありません。また、空腹時服用は消化器症状が出やすくなるリスクもあります。
したがって、食事を摂る予定がない場合や、ごく少量の食事しか摂らない場合は、メトホルミンの服用について医師に確認しておくことが重要です。自己判断で服用をスキップしたり、食事をしないまま服用したりせず、事前に医師から指示を受けておきましょう。例えば、「食事を抜く場合は服用しない」「軽食でも良いので何か食べてから服用する」など、個別の指示がある場合があります。

服用を忘れた場合の対処法

メトホルミンの服用をうっかり忘れてしまうこともあるかもしれません。服用を忘れた場合の対処法も、事前に医師や薬剤師に確認しておくことが大切です。
一般的に、服用を忘れたことに気づいたタイミングによって対応が異なります。

  • 次の服用時間に近い場合:
    忘れた分は飛ばして、次の通常の服用時間から再開する。一度に2回分をまとめて服用しない。
  • 次の服用時間まで十分な時間がある場合:
    気づいた時点で忘れた分を服用し、次の服用時間からは通常通りに戻す(ただし、次の服用との間隔が短くなりすぎないように注意が必要な場合もある)。

ただし、これは一般的な目安であり、患者さんの状態や服用しているメトホルミンの種類、併用薬などによって最適な対応は異なります。特に、自己判断で一度に多量のメトホルミンを服用すると、消化器症状が悪化したり、乳酸アシドーシス(メトホルミンの重篤な副作用の一つ)のリスクが高まる可能性もあります。
飲み忘れに気づいたら、まずは落ち着いて、事前に医師や薬剤師から受けた指示を確認しましょう。もし指示が不明な場合は、自己判断せず、医療機関や薬局に連絡して指示を仰ぐことが最も安全ですし、推奨されます。

メトホルミンについてよくある質問(Q&A)

メトホルミンを服用されている方からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。ただし、以下の情報は一般的なものであり、個々の患者さんの状況に完全に当てはまるわけではありません。必ずご自身の担当医にご相談ください。

メトホルミンは1日何錠まで服用できますか?

メトホルミンの1日に服用できる錠数は、お薬の種類(含有量)と医師から指示された1日の総用量によって異なります。
例えば、1錠あたり250mgのメトホルミンを含む製剤の場合、1日の総用量が1500mgであれば、1日に6錠まで服用することになります(1500mg ÷ 250mg/錠 = 6錠)。これが1錠あたり500mgの製剤であれば、1日に3錠まで(1500mg ÷ 500mg/錠 = 3錠)となります。
日本の添付文書における成人の1日の最大用量は通常2250mgですが、これはあくまで上限であり、全ての患者さんがこの量まで増量するわけではありません。多くの患者さんでは、1日500mg~1500mgの範囲で血糖コントロールが行われています。
医師は患者さんの血糖値、腎機能、副作用の有無などを総合的に判断して、最適な1日の総用量と、それを何回に分けて服用するか(1回あたりの錠数)を指示します。ご自身の服用しているメトホルミンの1錠あたりの含有量と、医師から指示された1日の総用量・服用回数・1回あたりの錠数を正確に把握しておくことが重要です。不明な点があれば、必ず医師や薬剤師に確認してください。

メトホルミンの効果を高めるには?

メトホルミンの効果を最大限に引き出し、良好な血糖コントロールを維持するためには、お薬の服用だけでなく、生活習慣の改善も非常に重要です。

  • 規則正しい服用:
    医師から指示された用法・用量を守り、毎日同じ時間に規則正しく服用することが、血中のお薬の濃度を安定させ、効果を継続するために不可欠です。
  • 食事療法:
    バランスの取れた食事を、適切な量で、規則正しい時間に摂ることが基本です。糖質の摂りすぎに注意し、食物繊維を豊富に含む食品を積極的に摂るように心がけましょう。メトホルミンの効果は、食事の内容やタイミングにも影響されます。
  • 運動療法:
    適度な運動は、筋肉でのブドウ糖の利用を促進し、インスリンの効きを良くする(インスリン抵抗性を改善する)効果があります。有酸素運動や筋力トレーニングを組み合わせることで、より効果的な血糖コントロールが期待できます。メトホルミンと運動療法の組み合わせは、相乗的に血糖降下作用を高める可能性があります。
  • 継続的な受診:
    定期的に医療機関を受診し、血糖値やHbA1cなどの検査を受けることで、お薬の効果や副作用の状況を医師に確認してもらいましょう。必要に応じて、お薬の用量や種類が調整されることもあります。

メトホルミンはあくまで糖尿病治療の一部であり、食事療法、運動療法と組み合わせて行うことで、より良い結果が得られます。これらの生活習慣改善について、栄養士や理学療法士などの専門家からアドバイスを受けることも有効です。

メトホルミンダイエットは1日3回服用ですか?

「メトホルミンダイエット」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、メトホルミンはダイエットを目的として健康な人が安易に服用すべき薬ではありません。メトホルミンは、主に2型糖尿病の治療薬として承認されており、医師の診断に基づいて処方される医療用医薬品です。
確かに、メトホルミンには体重減少効果が期待できる場合があることが知られています。これは、食欲を抑えたり、糖の吸収を抑えたりする作用によるものと考えられています。しかし、これは糖尿病治療の副次的な効果であり、健康な人が痩せることだけを目的として服用すると、思わぬ健康被害を招く可能性があります。
例えば、メトホルミンには乳酸アシドーシスという重篤な副作用のリスクがあり、特に腎機能障害や肝機能障害がある方、脱水状態にある方、飲酒量の多い方などでリスクが高まります。医師の管理なしに服用することは非常に危険です。
また、仮に糖尿病治療でメトホルミンを服用し、その結果として体重が減少した場合でも、その服用回数や用量は医師が患者さんの糖尿病の状態に合わせて決定するものであり、「ダイエット目的だから1日3回飲む」というように自分で決めることではありません。
体重管理でお悩みの方は、まず食事療法や運動療法といった基本的な生活習慣の改善に取り組み、必要であれば医師や専門家(栄養士、トレーナーなど)の指導を受けるようにしましょう。安易な自己判断でのメトホルミンの服用は絶対に避けてください。メトホルミンは、適切に使用すれば糖尿病治療に非常に有用な薬ですが、あくまで医療管理下で使用されるべきものです。

まとめ:メトホルミンの服用は医師の指示に従いましょう

メトホルミンが1日2回処方される主な理由は、血糖コントロールを1日を通して持続させるため、そして吐き気や下痢といった消化器症状などの副作用を軽減するためです。メトホルミンの効果や副作用の出方は、服用する量やタイミング、そして患者さん一人ひとりの体の状態によって異なります。
メトホルミンの用法・用量は、患者さんの年齢、体重、糖尿病の状態、腎機能、併用薬、食事や生活習慣などを総合的に考慮して、医師が個別に決定します。開始用量は少量から始め、効果と副作用を見ながら徐々に増やしていき、維持量を複数回(主に1日2回または3回)に分割して服用することが一般的です。ただし、徐放錠のように1日1回の服用が選択される場合もあります。食後に服用することが多いのは、副作用を軽減し、飲み忘れを防ぐためです。
メトホルミンを服用する上では、食事をしない場合の対応や、服用を忘れた場合の対処法など、いくつかの注意点があります。これらの具体的な対応についても、必ず事前に医師や薬剤師から指示を受けておくことが重要です。自己判断で用量を変更したり、服用回数を調整したりすることは危険であり、推奨されません。
「メトホルミンダイエット」のように、本来の目的以外でメトホルミンを安易に服用することも、重篤な副作用のリスクを伴うため絶対に避けてください。
メトホルミンは、適切に使用すれば糖尿病治療において非常に有効な薬剤です。しかし、その効果を安全かつ最大限に引き出すためには、医師の診断に基づいた適切な処方と、医師や薬剤師の指示に従った正しい服用が不可欠です。メトホルミンに関する疑問や不安な点があれば、遠慮なく担当の医師や薬剤師にご相談ください。

【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の治療法や薬剤を推奨するものではありません。個々の患者さんの病状や治療方針に関するご判断は、必ず医師にご相談ください。本記事の情報に基づいて発生したいかなる結果についても、当方は責任を負いかねます。