つらいかゆみで夜も眠れない、
人前で無意識にかきむしってしまう、見た目には何もないのにずっとかゆみが続く――。
そんな症状に悩まされていませんか?もしかしたら、それは単なる乾燥やかぶれではなく、「皮膚掻痒症(ひふそうようしょう)」かもしれません。
皮膚掻痒症は、皮膚に明らかな発疹や病変がないにも関わらず、強いかゆみを感じる状態を指します。掻痒症は皮膚に発疹や目立った異常がないのにかゆみだけがある病気です。 このかゆみは非常に不快で、日常生活に大きな影響を与えることがあります。しかし、「たかがかゆみ」と我慢したり、自己流で対処したりしていても、根本的な解決には繋がらないことが少なくありません。
この記事では、皮膚掻痒症の原因、症状、そして適切な治し方について、最新の知見に基づき詳しく解説します。つらいかゆみから解放され、快適な毎日を取り戻すために、ぜひ最後までお読みください。
皮膚掻痒症とは?症状と特徴
皮膚掻痒症は、皮膚に目に見えるような発疹や病変(湿疹、じんましんなど)がないにも関わらず、強いかゆみを感じる病態です。このかゆみは非常に不快で、睡眠障害や精神的な負担を引き起こすこともあります。
私たちの体は、様々な刺激に対して「かゆみ」という感覚を生じさせます。これは、皮膚の神経終末が刺激を受け、その情報が脳に伝えられることで認識されます。通常、かゆみは虫刺されや皮膚炎などの「皮膚の異常」によって引き起こされますが、皮膚掻痒症の場合は、皮膚そのものに明らかな異常が見られない点が大きな特徴です。
皮膚掻痒症のかゆみは、皮膚の神経終末や、かゆみを伝える神経回路に何らかの異常が生じることで発生すると考えられています。この異常は、体の内側の病気が原因であったり、神経の障害であったり、精神的な要因が関わっていたりするなど、非常に多様な原因によって引き起こされます。
全身性・局所性の皮膚掻痒症
皮膚掻痒症は、かゆみを感じる範囲によって大きく「全身性」と「局所性」に分けられます。
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全身性皮膚掻痒症
全身、あるいは広範囲の皮膚にかゆみを感じるタイプです。かゆみは移動したり、体のあちこちに出たりすることがあります。全身性の皮膚掻痒症は、内臓の病気や全身性の疾患が原因となっている可能性が高いため、注意が必要です。全身に掻痒を生じる汎発性皮膚掻痒症は,肝障害,腎不全などの基礎疾患に伴うことが多いと報告されています。 -
局所性皮膚掻痒症
特定の限られた部位にかゆみを感じるタイプです。例えば、頭皮、顔、背中、手足、お尻、陰部、肛門周囲など、体の特定の場所のみにかゆみが現れます。局所性の場合、その部位の皮膚や神経の問題、あるいは特定の生活習慣(衣類、刺激など)が原因となっていることが多いですが、全身性の病気の一症状として局所にかゆみが現れることもあります。
どちらのタイプかによって、考えられる原因や治療法が異なってくるため、自分がどちらのタイプに近いかを把握することは、適切な対処を行う上で役立ちます。ただし、自己判断は難しいため、専門医の診察を受けることが重要です。
皮膚に何もできていないのにかゆい?
「皮膚に何もできていないのに、どうしてこんなにかゆいのだろう?」と不思議に思う方も多いでしょう。これが皮膚掻痒症の最も特徴的な点です。
通常のかゆみは、皮膚表面の物理的な刺激(虫刺され、接触)や化学的な刺激(アレルギー物質、炎症物質)によって、皮膚に存在するかゆみを感じる神経終末が活性化されることで生じます。この際、多くの場合、皮膚には赤み、腫れ、発疹といった目に見える変化が現れます。
しかし、皮膚掻痒症の場合、かゆみの原因が皮膚の表面にあるわけではありません。かゆみを伝える神経の経路や、脳でかゆみを認識するプロセスに異常が生じていると考えられています。
具体的には、以下のようなメカニズムが考えられています。
- 末梢神経の異常興奮: 皮膚のかゆみを感じる神経終末そのものが、わずかな刺激や、体内から放出される物質によって過剰に反応する。
- 脊髄・脳内の神経伝達物質の変化: かゆみ信号を脊髄から脳へ伝える神経伝達物質のバランスが崩れる。特に、かゆみに関与する様々な神経伝達物質(ヒスタミン、サイトカイン、オピオイドペプチドなど)の異常が関与していると考えられています。
- 脳でのかゆみ処理の異常: 脳内でかゆみ信号が誤って解釈されたり、かゆみを抑制する機能が低下したりする。
このように、皮膚掻痒症のかゆみは、皮膚の表面的な問題だけでなく、体の内側の状態や神経システムの機能異常によって引き起こされると考えられています。そのため、見た目に異常がないからといって軽視せず、かゆみの原因を正しく診断することが重要です。
かゆみの特徴(ずっと同じ場所がかゆいなど)
皮膚掻痒症のかゆみは、その性質や現れ方が人によって、また原因によって多様です。以下のような特徴が見られることがあります。
- 持続性: 強いかゆみが継続的に、または断続的に長く続く。
- 夜間増悪: 夜間、寝る前にかゆみが強くなりやすい。これは、体温の上昇、副交感神経の優位、意識が覚醒していることなどが影響していると考えられています。夜中にかゆみで目が覚めてしまうことも多く、睡眠の質を著しく低下させます。
- 特定の部位のかゆみ: 常に同じ場所や特定の部位のみがかゆい(局所性皮膚掻痒症)。
- 移動性のかゆみ: かゆみが体のあちこちを移動する。
- チクチク、ムズムズ、ヒリヒリなど、多様なかゆみの質: 単なるかゆみだけでなく、焼けるような感覚、チクチクした感覚、ムズムズする感覚など、かゆみの質が様々であることがあります。これは、関与している神経の種類や原因によって異なると考えられています。
- 心理的な影響: ストレスや不安、かゆみへの意識が高まることで、かゆみがさらに増強される悪循環に陥ることがあります。
- 掻破による変化: 強いかゆみのために皮膚を掻きむしってしまうことが多く、その結果、二次的に皮膚に傷や色素沈着、肥厚(皮膚が厚くなること)が生じることがあります。これにより、さらにかゆみが増したり、細菌感染のリスクが高まったりすることもあります。
これらの特徴のうち、特に夜間にかゆみが強くなる、特定の部位に限定されている、あるいは全身に及ぶといった点は、原因を探る上で重要な手がかりとなります。ご自身のかゆみの特徴をよく観察し、医療機関を受診する際に詳しく医師に伝えるようにしましょう。
皮膚掻痒症の原因 – 内臓疾患、ストレス、乾燥など
皮膚掻痒症のかゆみは、多岐にわたる原因によって引き起こされます。原因を正確に特定することが、適切な治療を行う上で最も重要です。大きく分けて、全身性の病気、局所的な問題、皮膚の乾燥、精神的な要因などが考えられます。
全身性の原因(内臓疾患、血液疾患、がん、寄生虫)
全身性の皮膚掻痒症の背景には、様々な内臓の病気が隠れていることがあります。皮膚科医は、皮膚の状態だけでなく、全身の状態を把握するために問診や検査を行います。
肝疾患、慢性腎不全、糖尿病、甲状腺疾患
これらの疾患は、比較的よく全身性皮膚掻痒症の原因となります。全身に掻痒を生じる汎発性皮膚掻痒症は,肝障害,腎不全などの基礎疾患に伴うことが多いと報告されています。
- 肝疾患: 肝硬変や慢性肝炎など、胆汁の流れが悪くなる病気(胆汁うっ滞)では、胆汁酸という物質が体内に溜まりやすくなります。この胆汁酸が皮膚に蓄積し、かゆみを引き起こすと考えられています。原発性胆汁性胆管炎(PBC)では高率に合併し,掻痒発現率が70%前後と報告されています。 そのほか,B型慢性肝炎で8%,C型慢性肝炎で2.5~25%に掻痒症が発現するという報告があります。 かゆみは全身性で、特に夜間や温まると悪化しやすい傾向があります。
- 慢性腎不全: 腎臓の機能が低下すると、体内の老廃物や毒素が十分に排出されず、血液中に溜まります(尿毒症)。これらの物質がかゆみを引き起こすと考えられています。尿毒素による痒みの原因となる物質は特定されていませんが、中~大分子量の尿毒症物質が関係していると考えられています。 尿毒症性掻痒と呼ばれ、透析患者さんの多くが経験するつらい症状です。全身にかゆみが出ますが、特に背中や手足にかゆみが強いことが多いとされています。また、血中のリンやカルシウム濃度が上昇すると、骨以外の様々な組織に石灰沈着する異所性石灰化を引き起こし、皮膚だと痒みを引き起こすこともあります。
- 糖尿病: 糖尿病では、高血糖が長く続くことで末梢神経に障害が生じたり、皮膚が乾燥しやすくなったりすることでかゆみが起こることがあります。全身性のかゆみとして現れることも、足先など特定の部位にしびれを伴うかゆみとして現れることもあります。血糖コントロールが悪いとかゆみが悪化しやすい傾向があります。
- 甲状腺疾患: 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)や甲状腺機能低下症(橋本病など)でもかゆみが見られることがあります。甲状腺機能亢進症では代謝が活発になり、皮膚温の上昇や発汗増加に伴ってかゆみが生じやすいと考えられています。甲状腺機能低下症では皮膚が乾燥しやすく、それにかゆみを伴うことがあります。
これらの疾患によるかゆみは、原因となっている疾患の治療を行うことが最も効果的です。そのため、皮膚科で皮膚掻痒症と診断された場合でも、必要に応じて内科などで詳しい検査を受けることが推奨されます。
悪性腫瘍(がん)との関連
皮膚掻痒症が、悪性腫瘍(がん)の初期症状として現れることがあります。これを悪性腫瘍随伴性掻痒と呼びます。比較的まれな原因ではありますが、特に原因不明の全身性皮膚掻痒症が続く場合は、念頭に置かれることがあります。
関連が報告されているがんの種類としては、以下のようなものがあります。
- 血液系悪性腫瘍: ホジキンリンパ腫などの悪性リンパ腫や白血病、多発性骨髄腫など。特にホジキンリンパ腫では、全身性のかゆみが比較的よく見られる症状の一つとされています。かゆみは温まると悪化しやすく、特に夜間に強い傾向があります。
- 固形がん: 胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、脳腫瘍など。
- その他: 肝臓がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がんなど。
悪性腫瘍随伴性掻痒は、がんの種類によってかゆみの特徴が異なることがあります。例えば、ホジキンリンパ腫では入浴後にかゆみが強くなる、白血病では温疹(発疹を伴わないかゆみ)として現れる、などです。
なぜがんがかゆみを引き起こすのか、そのメカニズムは完全には解明されていませんが、腫瘍細胞から放出される様々な物質(サイトカイン、ヒスタミンなど)が神経を刺激したり、免疫システムに影響を与えたりすることでかゆみが生じると考えられています。
悪性腫瘍随伴性掻痒を疑うのは、主に以下のような場合です。
- 高齢者で、皮膚に異常がないのに全身性の強いかゆみが急に現れ、他の原因が見当たらない。
- 既存のかゆみ止め治療に反応しない。
- かゆみ以外の全身症状(体重減少、発熱、寝汗、リンパ節の腫れなど)を伴う。
ただし、皮膚掻痒症の多くの原因は悪性腫瘍ではありません。過度に心配する必要はありませんが、原因不明のかゆみが続く場合は、必ず医療機関を受診し、医師の判断のもと必要な検査を受けることが大切です。
局所性の原因(便秘、痔、神経障害性掻痒など)
特定の部位に限定されたかゆみ(局所性皮膚掻痒症)の場合、全身性の病気だけでなく、その部位特有の問題が原因となっていることがあります。
- 便秘・痔による肛門周囲のかゆみ: 便秘によって便が肛門周囲に停滞したり、痔(特にいぼ痔や切れ痔)によって炎症や分泌物が生じたりすると、肛門周囲に強いかゆみが生じることがあります。排便後や夜間に悪化しやすい傾向があります。清潔を保つことも重要ですが、洗いすぎや拭きすぎはかえって皮膚を刺激してかゆみを悪化させることもあるため注意が必要です。便秘や痔の治療を行うことがかゆみの改善につながります。
- 神経障害性掻痒: 神経の経路のどこかに障害が生じることで、皮膚に異常がなくてもかゆみを感じることがあります。
これは痛みやしびれと同様に、神経の異常な活動によって引き起こされる感覚です。
- 帯状疱疹後神経痛: 帯状疱疹が治った後も、ウイルスによって傷ついた神経が異常な信号を送り続け、痛みやかゆみ、しびれなどが残ることがあります。これは特定の神経が支配する領域に生じます。
- 脊髄疾患: 脊髄の病気(脊髄腫瘍、ヘルニア、圧迫など)によって、脊髄内でかゆみ信号が異常に処理されたり、伝達経路が圧迫されたりすることで、その障害レベル以下のかゆみが生じることがあります。例えば、首の脊髄に問題がある場合、背中や腕にかゆみが出ることがあります。
- 脳梗塞、脳出血、脳腫瘍など: 脳内の感覚に関わる部位に病変が生じた場合にも、体の特定の部分にかゆみを感じることがあります。
- 薬剤性掻痒: 一部の薬剤の副作用として、かゆみが生じることがあります。皮膚に発疹を伴うこともありますが、発疹がないかゆみとして現れることもあります。特に、オピオイド鎮痛薬、ACE阻害薬(降圧薬)、スタチン系薬剤(脂質異常症治療薬)、アスピリン、造影剤などが原因となることがあります。薬剤を変更したり、減量したりすることでかゆみが改善することがあります。
- 精神疾患に伴う掻痒(心因性掻痒): うつ病、不安障害、強迫性障害、統合失調症などの精神疾患や、強いストレスが原因でかゆみが生じたり、既存のかゆみが悪化したりすることがあります。これは、精神的な要因が脳内の神経伝達物質や免疫系に影響を与え、かゆみを感じやすくさせると考えられています。かゆみは特定の部位に限定されることも、全身に及ぶこともあります。精神科や心療内科での治療が有効な場合があります。
- 寄生虫: シラミやヒゼンダニ(疥癬の原因)などが皮膚に寄生することで強いかゆみが生じますが、初期には皮膚の病変が目立たないこともあります。特に疥癬は夜間に強いかゆみが特徴的で、家族など身近な人にうつることもあります。適切な診断と治療が必要です。
局所性皮膚掻痒症の場合、まずは皮膚科で診察を受け、その部位の皮膚の状態や、関連する可能性のある局所的な原因について調べてもらうことが重要です。必要に応じて、肛門科や神経内科、精神科など、他の診療科との連携が必要になることもあります。
皮膚の乾燥によるかゆみ
皮膚掻痒症の原因として、最も一般的で多くの人に見られるのが皮膚の乾燥です。特に空気が乾燥する冬場や、高齢者では皮膚のバリア機能が低下しているため、乾燥によるかゆみ(乾皮症による掻痒)が生じやすくなります。汎発性皮膚掻痒症の原因として最も多いのは老人性乾皮症(ドライスキン)によるものであると言われています。
健康な皮膚の表面は、皮脂膜や角質層の細胞間脂質によって保護され、体内の水分が蒸発するのを防ぎ、外部からの刺激(アレルゲン、病原体など)の侵入を防ぐバリア機能が保たれています。
しかし、乾燥によって皮膚の水分や皮脂が失われると、このバリア機能が低下します。
- 角質層の乱れ: 乾燥により角質層の細胞が剥がれやすくなり、隙間が生じます。
- バリア機能の低下: バリア機能が低下すると、外部からのわずかな刺激(衣類の摩擦、汗、温度変化など)が皮膚の内部に侵入しやすくなり、かゆみを感じる神経終末を刺激します。
- 炎症物質の放出: バリア機能が低下した皮膚では、軽微な刺激でも炎症反応が起こりやすくなり、ヒスタミンなどの炎症やかゆみを引き起こす物質が放出されます。
- 神経の過敏化: 長期的な乾燥や刺激によって、皮膚の神経そのものが過敏になり、わずかな刺激でも強いかゆみを感じるようになります。
乾燥によるかゆみは、スネ、ヒジ、ヒザ、背中など、皮脂腺が少なく乾燥しやすい部位に現れやすい傾向があります。見た目には粉を吹いたように乾燥している、あるいは軽度の赤みが見られる程度で、明らかな湿疹がないこともあります。ドライスキンによる皮膚掻痒症であるかどうかを診断するためには,実際の皮膚の状態を観察することが重要で,乾燥による亀裂や落屑の有無,皮膚の柔軟性の低下,小皺の増加などが診断の手がかりとなります。
保湿ケアは、乾燥によるかゆみの予防と治療において非常に重要です。適切な保湿剤を使い、皮膚の水分と油分を補うことでバリア機能を回復させ、かゆみを軽減することができます。
ストレスとの関係
私たちの心と体は密接に繋がっており、精神的な状態は皮膚の状態や感覚に大きく影響します。皮膚掻痒症においても、ストレスや精神的な要因が関与していることが少なくありません。
- ストレスによる免疫・内分泌系の影響: ストレスは、体内の免疫系や内分泌系(ホルモン分泌)に影響を与えます。これにより、かゆみに関与する物質(サイトカイン、ヒスタミン、コルチゾールなど)の分泌が増加したり、バランスが崩れたりすることがあります。
- 神経系の過敏化: 慢性的なストレスは、神経系を過敏化させ、かゆみを感じやすく、またかゆみ刺激に対してより強く反応するようになると考えられています。
- 掻破行動の増加: ストレスや不安があると、かゆみがなくても無意識に皮膚を触ったり掻いたりする行動が増えることがあります。これにより、皮膚のバリア機能がさらに傷つき、本当のかゆみが生じたり悪化したりする悪循環に陥ります。
- かゆみへの意識の集中: 精神的に疲れている、あるいは特定のことを気に病んでいると、体の感覚、特に不快な感覚であるかゆみに意識が集中しやすくなります。これにより、実際のかゆみ以上に強く感じてしまったり、かゆみが頭から離れなくなったりすることがあります。
このように、ストレスは皮膚掻痒症の原因そのものとなることも、既存のかゆみを悪化させる要因となることもあります。仕事や人間関係の悩み、睡眠不足、過労などもストレスとなり得ます。
ストレスが皮膚掻痒症に関与していると考えられる場合は、単にかゆみ止めを使うだけでなく、ストレスマネジメントも重要な治療法となります。リラクゼーション法(深呼吸、瞑想)、適度な運動、趣味、十分な睡眠、カウンセリングなどが有効な場合があります。
体の内側からくるかゆみの可能性
ここまで見てきたように、皮膚掻痒症のかゆみは、単なる皮膚の表面的な問題ではなく、体の内側の病気によって引き起こされている可能性が十分にあります。
特に、以下のような場合は、体の中からくるかゆみを強く疑う必要があります。
- 皮膚に発疹や炎症などの明らかな異常が見られない。
- かゆみが全身に及んでいる、または広範囲にわたる。
- かゆみが長期間(数週間〜数ヶ月以上)続いている。
- 通常の保湿ケアや市販のかゆみ止めが効かない。
- かゆみ以外に、だるさ、体重減少、食欲不振、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、むくみ、尿の色の変化などの全身症状を伴う。
- 最近、新しい薬を飲み始めた。
- 過去に内臓の病気を指摘されたことがある。
皮膚掻痒症の原因は多岐にわたるため、自己判断で原因を決めつけたり、市販薬で済ませたりせずに、必ず医療機関を受診することが大切です。医師による詳しい問診や検査(血液検査、尿検査、画像検査など)によって、かゆみの背景にある病気を正確に診断し、適切な治療を開始することが、つらいかゆみから解放されるための第一歩となります。
皮膚掻痒症の治し方・治療法
皮膚掻痒症の治療は、原因を特定し、その原因に対する治療を行うことが基本となります。同時に、かゆみそのものを抑える対症療法も行われます。
病院での治療(皮膚科受診の目安)
皮膚掻痒症が疑われる場合、あるいは原因不明のかゆみが続く場合は、まずは皮膚科を受診することをおすすめします。皮膚科医は、皮膚の状態を詳しく診察し、皮膚掻痒症かどうかを診断します。皮膚に発疹や病変がないことを確認した上で、問診からかゆみの特徴や全身の症状、既往歴、服用中の薬などを詳しく聞き取り、原因の手がかりを探します。
以下のような場合は、特に早めに皮膚科を受診することを検討しましょう。
- 皮膚に明らかな発疹がないのに、強いかゆみが続いている。
- かゆみが全身に広がっている。
- 市販のかゆみ止めや保湿剤を使っても改善しない。
- かゆみによって睡眠が妨げられている。
- かゆみ以外に、体調の変化(だるさ、体重減少など)がある。
- 特定の薬剤を服用している。
問診と検査(原因特定のためのプロセス)
皮膚科医は、まず丁寧な問診を行います。
- いつ頃からかゆみがありますか?
- かゆみは体のどこに出ますか?全身ですか、それとも特定の場所ですか?
- かゆみの強さはどのくらいですか?
- かゆみは日中と夜間のどちらが強いですか?入浴後や温まるとかゆみは変わりますか?
- かゆみ以外に、何か気になる症状(皮膚の変化、しびれ、痛み、だるさ、体重の変化など)はありますか?
- 過去に何か病気をしたことはありますか?現在、治療中の病気はありますか?
- 現在、何か薬を服用していますか?サプリメントなども含めて教えてください。
- アレルギーはありますか?
- 家族にかゆみのある人や皮膚の病気の人はいますか?
- 仕事や日常生活でストレスを感じていますか?
- 皮膚の乾燥はありますか?どのようにスキンケアをしていますか?
これらの問診から、かゆみの原因の手がかりが得られます。次に、必要に応じて以下のような検査を行います。
- 血液検査: 肝機能、腎機能、血糖値、甲状腺ホルモン、白血球や赤血球などの血液細胞の状態、炎症反応、アレルギーに関連する項目などを調べます。これらの検査によって、肝疾患、腎疾患、糖尿病、甲状腺疾患、血液疾患、悪性腫瘍などの全身性の病気の有無を確認します。
- 尿検査: 腎機能や糖尿病の有無などを調べます。
- 画像検査: 血液検査などで異常が疑われる場合や、特定の部位に原因が考えられる場合(例:腹部超音波検査で肝臓や胆嚢の状態を確認、胸部X線やCT検査で肺の状態を確認など)に行われることがあります。
- 皮膚生検: まれに、見た目には分からない微細な炎症や特定の病変があるかどうかを確認するために、皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる検査が行われることがあります。
- 薬歴の確認: 服用中の薬剤がかゆみの原因となっていないかを確認します。
これらの問診と検査結果を総合的に判断して、皮膚掻痒症の原因を診断し、適切な治療方針が立てられます。
内服薬(抗ヒスタミン薬など)
かゆみそのものを抑えるために、様々な内服薬が処方されます。
薬剤の種類 | 主な作用 | 特徴・備考 |
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抗ヒスタミン薬 | かゆみの伝達物質であるヒスタミンの働きを抑える | 皮膚掻痒症の治療薬として最も一般的に使用されます。 第一世代は眠気が出やすい、第二世代は眠気が比較的少ないという特徴があります。 かゆみだけでなく、アレルギー反応も抑制します。 |
抗アレルギー薬 | アレルギー反応に関わる様々な化学伝達物質の放出や働きを抑える | 抗ヒスタミン作用に加え、アレルギー反応そのものを抑える効果も期待できます。 |
抗うつ薬 | 脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)のバランスを調整する | 精神的な要因が関与しているかゆみや、難治性のかゆみに対して使用されることがあります。 かゆみに関わる神経回路に作用すると考えられています。効果が出るまでに時間がかかる場合があります。 |
オピオイド受容体拮抗薬 | かゆみに関わるオピオイド受容体の働きを抑える | 慢性腎不全による尿毒症性掻痒や、肝疾患による胆汁うっ滞性掻痒など、特定の原因による難治性のかゆみに使用されることがあります。副作用に注意が必要です。 |
GABA類似薬 | 神経の興奮を抑える | 神経障害性掻痒(帯状疱疹後神経痛など)によるかゆみや痛みに使用されることがあります。眠気やめまいなどの副作用が出ることがあります。 |
抗ヒスタミン薬は、かゆみ治療の第一選択薬として広く使われます。特に、夜間のかゆみが強い場合は、眠気が出やすい第一世代抗ヒスタミン薬が有効なこともあります。日中の眠気を避けたい場合は、第二世代抗ヒスタミン薬が選択されます。効果が不十分な場合は、複数の種類の抗ヒスタミン薬を併用したり、他のタイプのかゆみ止めを試したりすることがあります。
内服薬は、原因や症状の程度に応じて医師が判断し処方します。自己判断で中止したり、量を調整したりせず、必ず医師の指示に従って服用してください。
外用薬(保湿剤、ステロイドなど)
皮膚の状態を改善し、かゆみを抑えるために外用薬も重要な役割を果たします。
- 保湿剤: 皮膚の乾燥によるかゆみに対して最も重要です。皮膚の水分を保ち、バリア機能を回復させることで、外部刺激から皮膚を保護し、かゆみを軽減します。ローション、クリーム、軟膏など様々なタイプがあり、乾燥の程度や部位によって使い分けます。
- 尿素配合製剤: 角質を柔らかくし、水分を保持する効果があります。ひび割れなどがある部分には刺激になることがあります。
- ヘパリン類似物質含有製剤: 皮膚の血行促進や保湿効果、抗炎症作用があります。
- セラミド含有製剤: 皮膚にもともと存在する保湿成分であるセラミドを補い、バリア機能を修復する効果があります。
- ワセリンなど油脂性基剤: 皮膚表面に油膜を作り、水分の蒸発を防ぐ効果が高いですが、保湿成分そのものを含まないため、水分を補った後に使用すると効果的です。
- ステロイド外用薬: 皮膚の炎症を強力に抑える効果があります。ただし、皮膚掻痒症の場合は皮膚に明らかな炎症(湿疹、皮膚炎)がないことも多いため、第一選択とはならない場合があります。しかし、掻き壊しによる二次的な炎症を抑える目的や、アレルギー性の機序が関与している場合に処方されることがあります。ステロイド外用薬には強さが様々あり、症状や部位によって適切な強さのものが処方されます。漫然と長期間使用すると皮膚が薄くなるなどの副作用のリスクがあるため、必ず医師の指示通りに使用してください。
- タクロリムス軟膏・ピメクロリムスクリーム: ステロイドとは異なるメカニズムで免疫反応を抑え、炎症やかゆみを軽減する外用薬です。ステロイド外用薬が使いにくい部位(顔など)や、ステロイドの長期使用を避けたい場合などに使用されることがあります。
- メントール・カンフル含有外用薬: スーッとした清涼感でかゆみを一時的に紛らわせる効果があります。ただし、皮膚を刺激することもあるため、広範囲の使用や敏感な部位への使用は避けた方が良い場合があります。
- 抗ヒスタミン成分含有外用薬: 塗布した部位のかゆみを抑える効果があります。ただし、皮膚への刺激やアレルギー反応(接触皮膚炎)を起こす可能性もあります。
外用薬は、塗るタイミングや量、塗り方が重要です。保湿剤は、入浴後や洗顔後など、肌が清潔で水分を含んでいる状態に塗布すると効果的です。ステロイド外用薬は、指示された量を必要な期間だけ正確に塗布することが大切です。自己判断で中止したり、他の人に譲ったりしないでください。
原因疾患の治療
皮膚掻痒症の原因が特定の全身性疾患や局所的な病気にある場合は、その原因疾患に対する治療を並行して行うことが、かゆみの根本的な改善につながります。
例えば、
- 肝疾患によるかゆみ: 肝機能の改善や胆汁の流れを良くする治療(ウルソデオキシコール酸などの薬物療法)、あるいは原因疾患(ウイルス性肝炎など)に対する治療を行います。
- 慢性腎不全によるかゆみ: 腎機能の維持・改善を目指す治療や、透析療法を受けている場合は透析効率の改善、かゆみ止めの内服薬(オピオイド受容体拮抗薬など)の併用などを行います。
- 糖尿病によるかゆみ: 血糖コントロールを良好に保つことが重要です。
- 甲状腺疾患によるかゆみ: 甲状腺ホルモンのバランスを正常に戻す治療を行います。
- 悪性腫瘍随伴性掻痒: 原則として、原因となっている悪性腫瘍の治療(手術、化学療法、放射線療法など)を行います。腫瘍が縮小・消失することでかゆみが改善することが多いです。
- 便秘・痔によるかゆみ: 便通を整える治療や、痔に対する適切な治療を行います。
- 神経障害性掻痒: 神経の障害に対する治療(原因疾患の治療、神経ブロック、GABA類似薬など)を行います。
原因疾患の治療は、それぞれの専門医(内科医、腎臓内科医、消化器内科医、腫瘍内科医、肛門科医、神経内科医など)と皮膚科医が連携して行うことが理想的です。皮膚科医が原因疾患の可能性を疑った場合、適切な専門医への受診を勧められることがあります。
市販薬での対応
皮膚掻痒症によるかゆみが比較的軽度である場合や、一時的なものであれば、市販薬で対応することも可能かもしれません。市販のかゆみ止めには、主に以下のような成分が含まれています。
- 抗ヒスタミン成分(ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンなど): かゆみの原因物質であるヒスタミンの働きを抑えます。内服薬、外用薬(クリーム、ローションなど)があります。内服薬は眠気が出やすいものもあります。
- ステロイド成分: 炎症を抑える効果がありますが、市販薬のステロイド外用薬は医療用よりも強さが弱めに設定されています。
- 清涼化成分(メントール、カンフルなど): スーッとした感覚でかゆみを一時的に紛らわせます。
- 局所麻酔成分(リドカインなど): 神経の働きを抑え、かゆみを感じにくくします。
- 保湿成分(尿素、ヘパリン類似物質、セラミドなど): 皮膚の乾燥によるかゆみに有効です。かゆみ止め成分と組み合わせて配合されていることもあります。
市販薬を使用する際の注意点
- 原因を特定できない: 市販薬はかゆみという症状を一時的に抑えるためのものであり、かゆみの根本原因を治療するものではありません。皮膚掻痒症の場合、重大な病気が隠れている可能性もあるため、自己判断で原因不明のかゆみを市販薬で済ませるのは危険です。
- 効果の限界: 市販薬の成分濃度や種類には限界があります。医療用医薬品に比べて効果が不十分な場合が多く、特に強いかゆみや広範囲のかゆみには対応できないことがあります。
- 副作用のリスク: どんな薬にも副作用のリスクがあります。市販薬であっても、成分によっては眠気、皮膚への刺激、アレルギー反応(かぶれ)などを引き起こす可能性があります。添付文書をよく読み、用法用量を守って使用してください。
- 長期間の使用: 市販薬を漫然と長期間使用することは避けてください。特にステロイド外用薬の長期使用は皮膚を傷める可能性があります。数日間使用しても改善が見られない場合や、かゆみが悪化する場合は、使用を中止して医療機関を受診しましょう。
市販薬が比較的有効なケース
- 皮膚の乾燥が原因で、軽度のかゆみがある場合(保湿成分主体のもの)
- 一時的な軽度のかゆみで、原因が比較的はっきりしている場合(例:軽い接触によるかゆみなど)
市販薬ではなく医療機関を受診すべきケース
- 皮膚に発疹がないのに強いかゆみが続いている
- かゆみが全身に広がっている、または広範囲である
- かゆみによって睡眠が妨げられている
- かゆみ以外に全身の体調の変化がある
- 過去に特定の病気をしたことがある、あるいは現在治療中の病気がある
- 服用中の薬がある
自己判断に限界があることを認識し、不安な場合や症状が改善しない場合は迷わず医療機関を受診することが賢明です。
日常生活での対策(スキンケア、入浴法、衣類)
病院での治療と並行して、日常生活でのちょっとした工夫がかゆみを軽減し、皮膚の状態を良好に保つために役立ちます。
正しいスキンケア(洗浄、保湿)
皮膚の清潔を保つことは大切ですが、洗いすぎは皮膚のバリア機能を損ない、乾燥を招き、かゆみを悪化させます。
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洗浄:
- 体を洗う際は、石鹸やボディソープを使いすぎず、よく泡立てて優しく洗いましょう。石鹸成分が皮膚に残りすぎないように、十分に洗い流してください。
- 洗浄力が強すぎる石鹸やボディソープ、刺激性の高いもの(香料、着色料が多いもの)は避け、弱酸性や低刺激性のものを選ぶと良いでしょう。
- ゴシゴシとタオルやブラシで擦ることは絶対に避けましょう。手のひらで優しく洗うか、柔らかいタオルを使う程度にしましょう。
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保湿:
- 洗浄後は、すぐに(タオルで水分を拭き取ってから数分以内が目安)保湿剤を全身に塗布しましょう。皮膚がまだ少し湿っている状態の方が、保湿剤がなじみやすいです。
- 保湿剤は、乾燥の程度や季節、部位に合わせて選びましょう。乾燥が強い場合はクリームや軟膏タイプ、夏場や広範囲にはローションタイプなどが使いやすいです。
- 特に乾燥しやすいスネ、ヒジ、ヒザ、背中などは念入りに塗りましょう。
- 一日複数回、特に乾燥を感じる時に塗布するとより効果的です。
- 保湿剤は、たっぷりと手に取り、皮膚に優しくなじませるように塗ります。擦り込むように塗る必要はありません。
入浴時の注意点(温度、時間、石鹸)
入浴は体を温め、清潔に保つために重要ですが、入り方を間違えるとかゆみを悪化させてしまうことがあります。
- お湯の温度: 熱すぎるお湯は皮膚のバリア機能を損ない、乾燥を招きやすいです。38~40℃程度のぬるめのお湯にしましょう。
- 入浴時間: 長時間の入浴は皮膚の天然の保湿成分を洗い流してしまいます。10~15分程度を目安に、短時間で済ませましょう。
- 石鹸の使用: 毎日全身を石鹸で洗う必要はありません。汗をかいた時や汚れが気になる部位(脇、股、足など)を中心に、必要な部分だけ石鹸を使うようにしましょう。
- 入浴剤: 保湿成分入りの入浴剤は、皮膚の乾燥を防ぐのに役立ちます。ただし、香料や着色料が多いもの、炭酸ガス系のものは刺激になる場合もあるため、肌に優しいタイプを選びましょう。
- 体を拭く: 入浴後は、タオルでゴシゴシ擦らず、押さえるように優しく水分を拭き取りましょう。
衣類・寝具の選び方(素材、締め付け)
皮膚に直接触れる衣類や寝具の素材、締め付けもかゆみに影響することがあります。
- 素材: 綿や絹などの天然素材で、肌触りが良く吸湿性の高いものを選びましょう。化学繊維(ウール、ナイロン、ポリエステルなど)は静電気を起こしやすく、肌への刺激となることがあるため、避けた方が良い場合があります。
- 締め付け: 体を締め付けるようなきつい衣類は、摩擦や蒸れによってかゆみを誘発・悪化させることがあります。ゆったりとしたデザインのものを選びましょう。
- 寝具: シーツやパジャマも肌触りの良い天然素材がおすすめです。清潔を保つために、こまめに洗濯しましょう。洗剤の成分が残らないように、十分にすすぐことも大切です。
爪の手入れ
かゆくて掻きむしってしまうと、皮膚に傷がつき、細菌感染を起こしたり、かゆみがさらにひどくなったりします。
- 爪を短く切って丸く整えておくことで、皮膚を傷つけるリスクを減らすことができます。
- 寝ている間に無意識に掻いてしまう場合は、手袋をして寝るなどの対策も有効です。
室温・湿度の調整
空気の乾燥は皮膚の乾燥につながり、かゆみを悪化させます。
- 特に冬場は、加湿器などを使って室内の湿度を適切に保つようにしましょう(目安は50~60%)。
- 夏場もエアコンによる乾燥に注意が必要です。
- 暑すぎたり、汗をかいたりするとかゆみが強くなることがあるため、室温を快適に保つことも重要です。
食生活の工夫
特定の食品がかゆみを誘発するとは限りませんが、バランスの取れた食事は皮膚の健康を保つために大切です。
- 水分を十分に摂取し、体の内側からも乾燥を防ぎましょう。
- 香辛料やアルコールは体を温め、血管を拡張させてかゆみを増強させることがあるため、かゆみが強い時は控えた方が良い場合があります。
ストレスマネジメント
前述の通り、ストレスはかゆみを悪化させる要因となります。
- 自分に合ったリラックスできる方法を見つけましょう(趣味、運動、音楽鑑賞、入浴など)。
- 十分な睡眠時間を確保し、心身の疲れを癒しましょう。
- ストレスの原因に対処することが難しい場合や、自分で対処できない場合は、専門家(医師、カウンセリングなど)に相談することも検討しましょう。
これらの日常生活での対策は、治療の効果を高め、かゆみをコントロールするために非常に重要です。毎日継続して行うことが、つらいかゆみから解放されるための鍵となります。
皮膚掻痒症が治らないと感じたら
適切な治療を受けているにも関わらず、皮膚掻痒症のかゆみがなかなか改善しない、あるいは悪化していると感じる場合は、いくつかの可能性があります。
- 原因が特定できていない: かゆみの原因がまだ見つかっていないか、あるいは複数の原因が重なっている可能性があります。再度、医師と相談し、さらに詳しい検査が必要かどうか検討しましょう。
- 原因疾患の治療が不十分: かゆみの原因となっている内臓疾患などの治療がまだ十分に進んでいない可能性があります。原因疾患の治療状況について、担当医と皮膚科医の間で情報共有し、連携して治療を進めることが重要です。
- かゆみ止め治療薬が合っていない、あるいは不十分: 処方されているかゆみ止め薬の種類、量、あるいは組み合わせが、ご自身のかゆみに対して合っていない可能性があります。医師に症状を伝え、別の種類の薬を試したり、複数の薬を組み合わせたりすることを検討してもらいましょう。
- 精神的な要因の影響が大きい: ストレスや不安、うつなどが強く関与している場合、かゆみ止めだけでは改善が難しいことがあります。精神科や心療内科の専門医と連携して、精神的な側面からのアプローチも必要になることがあります。
- 難治性掻痒: 特定の原因が見つからず、通常の治療に反応しない難治性の皮膚掻痒症もあります。このような場合でも、様々な治療法(光線療法、新しいタイプの内服薬など)を試すことで、かゆみを軽減できる可能性があります。
- 掻破による悪循環: 強いかゆみのために皮膚を掻きむしることで、皮膚の状態が悪化し、それがさらなるかゆみを引き起こすという悪循環に陥っている可能性があります。かゆみを抑える治療と並行して、掻破行動をコントロールするための工夫や、二次的に生じた皮膚病変(湿疹、感染など)の治療も重要になります。
専門医への相談
原因不明の難治性皮膚掻痒症や、特定の原因疾患が疑われる場合は、必要に応じて以下のような専門医に相談することを検討しましょう。
- 総合病院や大学病院の皮膚科: 難治性の皮膚疾患や珍しい疾患の診療経験が豊富で、様々な検査や治療法に対応できる体制が整っている場合があります。
- 各領域の専門医: 肝疾患(消化器内科)、腎疾患(腎臓内科)、血液疾患(血液内科)、糖尿病(内分泌・代謝内科)、甲状腺疾患(内分泌内科)、悪性腫瘍(腫瘍内科、血液内科など)、神経障害(神経内科)、精神的な問題(精神科、心療内科)など、疑われる原因に応じて適切な専門医の診察を受けることが、原因の特定と適切な治療につながります。
皮膚掻痒症は、原因が多岐にわたり、診断・治療が難しい場合もあります。しかし、決して諦めずに、医師と協力しながら根気強く治療を続けていくことが大切です。
皮膚掻痒症に関するよくある質問(FAQ)
皮膚掻痒症に関して、患者さんからよく聞かれる質問とその回答をまとめました。
夜間にかゆみが強くなるのはなぜですか?
皮膚掻痒症のかゆみは、夜間や体が温まった時に強くなる傾向があります。これはいくつかの要因が関係しています。
- 体温上昇: 寝具に入ったり、温かい部屋にいたりすると体温が上昇し、血管が拡張してかゆみ物質が放出されやすくなります。
- 副交感神経の優位: 夜間は体をリリックスさせる副交感神経が優位になります。これにより、かゆみを伝える神経が活発になりやすくなると考えられています。
- 意識の状態: 日中は活動しているため、かゆみ以外のことに気が紛れますが、夜間は静かで、かゆみに意識が集中しやすくなります。
- コルチゾールの分泌量の変化: 体の抗炎症作用を持つホルモンであるコルチゾールの分泌量は、日中に高く、夜間に低下します。これにより、夜間は炎症やかゆみを抑える力が弱まることも影響していると考えられています。
夜間のかゆみ対策としては、寝室の温度や湿度を快適に保つ、寝具の素材を見直す、寝る前にぬるめのシャワーを浴びる、保湿をしっかり行う、眠気が出やすいタイプの抗ヒスタミン薬を医師に相談して服用するなどが有効な場合があります。
高齢者にかゆみが多いのはなぜですか?
高齢者には皮膚掻痒症が多い傾向があります。これは、加齢に伴う様々な体の変化が関係しています。 掻痒(そうよう)、つまり「かゆみ」は高齢者にとって非常につらい訴えです。かゆみは発疹がある、つまり皮膚に変化があるものと、発疹がないのにかゆみがあるものに簡単にわけられます。掻痒症は皮膚に発疹や目立った異常がないのにかゆみだけがある病気です。
- 皮膚の乾燥: 年齢とともに皮膚のバリア機能が低下し、皮脂や天然保湿因子、セラミドなどが減少するため、皮膚が非常に乾燥しやすくなります。汎発性皮膚掻痒症の原因として最も多いのは老人性乾皮症(ドライスキン)によるものであると言われています。 これがかゆみの最も大きな原因の一つです。
- 内臓疾患の増加: 高齢者は、肝臓病、腎臓病、糖尿病、悪性腫瘍など、皮膚掻痒症の原因となりうる全身性疾患を抱えている確率が高くなります。
- 神経機能の変化: 加齢により皮膚の神経機能にも変化が生じ、かゆみを感じやすくなる、あるいはかゆみを感じる閾値が低下することが考えられています。
- 多剤併用: 高齢者は複数の疾患を治療するために多くの薬を服用していることがあり、薬剤性掻痒のリスクが高まります。
高齢者の皮膚掻痒症の治療においては、保湿ケアの徹底が特に重要です。また、原因疾患の有無を慎重に調べ、必要に応じて全身の状態を含めた総合的な治療が必要です。
子供の皮膚掻痒症の原因と対策は?
子供でも皮膚掻痒症は起こり得ますが、大人の場合とは原因が異なることもあります。
- 乾燥: 子供の皮膚もデリケートで乾燥しやすいため、特に冬場は乾燥によるかゆみが起こりやすいです。
- アトピー性皮膚炎: 子供のかゆみの原因として最も多いのがアトピー性皮膚炎です。見た目に湿疹を伴いますが、初期や軽症の場合、乾燥と軽度の赤み程度で強いかゆみを訴えることもあります。
- 感染症: 水痘(水ぼうそう)、麻疹(はしか)などのウイルス感染症や、とびひなどの細菌感染症、疥癬などの寄生虫感染症でもかゆみが生じます。
- アレルギー: 食物アレルギーや接触アレルギーなどが、かゆみの原因となることもあります。
- まれな原因: 大人と同様に、内臓疾患や神経の病気などが原因となることもありますが、頻度は低いです。
子供のかゆみの場合も、まずは皮膚科を受診し、原因を正確に診断してもらうことが大切です。治療としては、原因に対する治療に加え、保湿ケア、かゆみ止め(抗ヒスタミン薬や外用薬など)が用いられます。掻き壊しによる悪化を防ぐために、爪を短く切る、手袋をするなどの対策も重要です。
特定の季節にかゆみがひどくなるのはなぜですか?
皮膚掻痒症のかゆみは、季節によって変化することがよくあります。
- 冬: 空気が乾燥し、暖房の使用によって室内も乾燥するため、皮膚の乾燥が進みやすく、かゆみが悪化する人が多いです。また、厚着や重ね着による摩擦もかゆみの原因となることがあります。
- 夏: 汗をかきやすく、汗に含まれる成分や、汗が蒸発する際の気化熱が皮膚を刺激してかゆみを引き起こすことがあります。また、虫刺されやカビなども夏に増えるかゆみの原因です。
- 季節の変わり目: 温度や湿度の変化に皮膚が慣れず、一時的にバリア機能が不安定になり、かゆみが出やすいことがあります。
季節ごとの対策としては、冬は徹底した保湿ケア、夏は汗をこまめに拭く・シャワーで洗い流す、通気性の良い衣類を選ぶなどが有効です。
食事や飲酒はかゆみに関係しますか?
皮膚掻痒症の原因が特定の食物アレルギーでない限り、一般的に特定の食品を食べることで皮膚掻痒症のかゆみが直接引き起こされることはまれです。ただし、以下のような点は考慮が必要です。
- アルコール・香辛料: アルコール摂取や辛いものを食べることで、血管が拡張し、体が温まることでかゆみが一時的に増強されることがあります。
- カフェイン: カフェインは神経を興奮させる作用があるため、かゆみを感じやすくさせる可能性が指摘されることがありますが、明確な根拠は乏しいです。
- 特定の栄養素: バランスの取れた食事は皮膚の健康維持に重要です。ビタミンやミネラルなどが不足すると皮膚の状態が悪化しやすくなる可能性があります。
- 原因疾患との関連: 肝臓病によるかゆみの場合、食事内容(特に脂っこいものやアルコール)が病状に影響し、結果としてかゆみに影響を与える可能性があります。
全体として、特定の食品を避けることよりも、バランスの取れた食事と規則正しい生活を送ることが、皮膚の健康を保ち、かゆみをコントロールする上でより重要と言えます。
かゆみ止めの薬はずっと飲み続けても大丈夫ですか?
皮膚掻痒症の治療で使用されるかゆみ止め(内服薬、特に抗ヒスタミン薬)を長期間服用することについては、医師の指示に従うことが重要です。
- 原因疾患の治療: かゆみの原因となっている病気がある場合、その病気が改善すれば、かゆみ止めが必要なくなる、あるいは減量できる可能性があります。原因治療が最も根本的な解決策です。
- 薬の種類: 抗ヒスタミン薬の中でも、第二世代抗ヒスタミン薬は比較的長期の使用に適しているとされています。しかし、第一世代抗ヒスタミン薬は眠気や口の渇きなどの副作用が出やすく、長期間の服用には注意が必要です。
- 医師の判断: 長期間服用が必要かどうかは、かゆみの原因、程度、患者さんの全身状態、他の病気や服用中の薬などを総合的に考慮して医師が判断します。自己判断で長期服用したり、中止したりせず、定期的に医師の診察を受けて、薬の効果や副作用、今後の治療方針について相談しましょう。
かゆみ止めは、つらいかゆみを軽減し、生活の質を改善するために有効な治療法ですが、あくまで対症療法です。可能な限り、かゆみの根本原因を治療することが目標となります。
皮膚掻痒症は人にうつりますか?
皮膚掻痒症そのものが、人にうつることはありません。 皮膚掻痒症は、皮膚に明らかな感染症や寄生虫がいない、体の内側の問題や神経の異常、乾燥などが原因で起こる病態だからです。
ただし、皮膚掻痒症の原因が、疥癬(ヒゼンダニ)、シラミなどの寄生虫感染症である場合は、これらの寄生虫が人にうつることがあります。また、掻き壊した傷から細菌やウイルスが感染し、それが他人にうつる可能性はゼロではありません。
原因がはっきりしないかゆみがあり、家族や身近な人にも同じようなかゆみが出ている場合は、感染症の可能性も考えて医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
【まとめ】皮膚掻痒症の原因と治し方について
皮膚に明らかな発疹や病変がないのに強いかゆみを感じる皮膚掻痒症は、非常に不快でつらい症状です。掻痒症は皮膚に発疹や目立った異常がないのにかゆみだけがある病気です。 単なる乾燥や一時的なものと考えがちですが、その背景には、体の内側の病気、神経の異常、精神的な要因など、多様な原因が隠されている可能性があります。
皮膚掻痒症のかゆみは、
- 全身性・局所性のどちらかで現れる
- 見た目に異常がないのにかゆい
- 夜間や温まると悪化しやすい
- 掻き壊しによる二次的な皮膚病変を生じやすい
といった特徴を持つことがあります。
原因としては、肝疾患、慢性腎不全、糖尿病、甲状腺疾患といった内臓疾患、悪性腫瘍(がん)、便秘・痔、神経障害(帯状疱疹後神経痛など)、薬剤、ストレス、そして最も一般的な皮膚の乾燥などが考えられます。全身に掻痒を生じる汎発性皮膚掻痒症は,肝障害,腎不全などの基礎疾患に伴うことが多い一方、汎発性皮膚掻痒症の原因として最も多いのは老人性乾皮症(ドライスキン)であるとも言われています。慢性腎不全によるかゆみは、尿毒素や血中ミネラルの異常が関与する可能性も指摘されています。
皮膚掻痒症の治し方・治療法は、まず原因を正確に特定することから始まります。皮膚科医による詳しい問診、皮膚の診察、そして必要に応じた血液検査、尿検査、画像検査などが行われます。ドライスキンによる皮膚掻痒症であるかの診断には,実際の皮膚の状態観察(乾燥による亀裂や落屑,皮膚の柔軟性低下,小皺増加など)が重要です。
治療の中心は、
- 原因疾患に対する治療
- かゆみそのものを抑える対症療法(内服薬、外用薬)
となります。内服薬としては抗ヒスタミン薬などが、外用薬としては保湿剤やステロイド外用薬などが使われます。原因によっては、抗うつ薬やオピオイド受容体拮抗薬などが有効な場合もあります。
また、日常生活での対策も非常に重要です。正しいスキンケア(優しい洗浄と十分な保湿)、入浴方法の見直し(ぬるめのお湯、短時間)、肌触りの良い衣類・寝具の選択、爪の手入れ、室温・湿度の調整、ストレスマネジメントなどが、かゆみを軽減し、皮膚の状態を改善するために役立ちます。高齢者の掻痒には加齢に伴う乾燥や内臓疾患が関与することが多いため、特に丁寧なスキンケアと全身管理が重要です。
市販薬で一時的にかゆみをしのぐことも可能ですが、原因不明のかゆみや、強いかゆみが続く場合は、自己判断せずに必ず医療機関(まずは皮膚科)を受診しましょう。つらいかゆみを我慢せずに、医師と相談しながら原因を特定し、適切な治療を根気強く続けることが、快適な毎日を取り戻すための最も確実な方法です。
つらいかゆみにお悩みの方は、一人で抱え込まず、ぜひ専門医に相談してみてください。
免責事項: この記事の情報は一般的な知識を提供するものであり、個々の病状の診断や治療を保証するものではありません。特定の症状がある場合や治療については、必ず医師の診断と指導を受けてください。