導入
粉瘤(アテローム)は、皮膚の下にできる良性の腫瘍で、中にドロドロとした垢や皮脂が溜まった袋状の構造物です。
全身どこにでもできますが、特に顔、首、背中、耳の後ろなどによく見られます。
このできものは、自然に治ることは少なく、放置すると徐々に大きくなったり、炎症を起こして痛みや腫れを伴ったりすることがあります。
なぜ粉瘤ができるのか、どのような人ができやすいのか、そして適切な対処法について理解することは、粉瘤の症状に悩む方にとって非常に重要です。
この記事では、粉瘤の原因や特徴、放置した場合のリスク、そして安全な治療法について、皮膚科医の視点から詳しく解説します。
気になる症状がある方は、ぜひ最後までご覧ください。
粉瘤とは? 正式名称や特徴
粉瘤は、皮膚の下に発生する、比較的よく見られるできものです。
正式には「アテローム」や「類表皮嚢腫(るいひょうひのうしゅ)」と呼ばれます [1]。
これは、皮膚の一部が内側に入り込んで袋状になり、その袋の中に皮膚の老廃物である垢(角質)や皮脂が溜まってできる腫瘍です。
見た目は、皮膚が少し盛り上がったドーム状のしこりとして現れます。
大きさは数ミリ程度の小さなものから、数センチ、場合によってはそれ以上に大きくなることもあります。
中央には、しばしば黒っぽい小さな点のような穴(開口部)が見られることがあります。
この穴から、押すと臭いを伴うドロっとした内容物が出てくることがありますが、これは粉瘤の内容物であり、無理に出そうとすると症状を悪化させる可能性があるため避けるべきです。
粉瘤は良性の腫瘍であり、がん化する心配はほとんどありません。
しかし、袋の中に溜まった内容物は細菌が繁殖しやすく、炎症や感染を起こしやすい性質があります。
炎症を起こすと、赤く腫れて熱を持ち、強い痛みを伴うことがあります。
炎症を繰り返したり、大きくなったりすると、治療が複雑になったり、痕が残りやすくなったりするため、気になる症状がある場合は早めに医療機関を受診することが推奨されます。
粉瘤の主な原因
粉瘤ができる原因は、完全に解明されているわけではありませんが、いくつかの発生メカニズムや関連要因が考えられています。
最も一般的な発生原因は、毛穴の一部が皮膚の下に入り込んで袋状になることによるものと考えられています。
アテロームの発生メカニズム
粉瘤は、毛穴の構造と深く関わっています。
通常、毛穴の細胞は皮膚の表面に向かって成長し、古い細胞は垢となって剥がれ落ちます。
しかし、何らかの原因で毛穴の一部が皮膚の深い部分に入り込み、そこで増殖して袋(嚢腫)を形成してしまうことがあります。
この袋の内部では、本来であれば皮膚の表面に排出されるはずだった角質や皮脂が蓄積され続けます。
時間が経つにつれて、この蓄積された老廃物の量が増え、粉瘤は徐々に大きくなっていきます。
なぜ毛穴の一部が内側に入り込んでしまうのか、具体的なメカニズムはまだ不明な点が多いですが、以下のような要因が関与していると考えられています。
- 毛穴の出口の閉塞: 毛穴の開口部が、汚れや角質、皮脂などによって詰まることで、内部の細胞が正常に排出されず、皮膚の下で増殖してしまう。
- 外傷や炎症: 皮膚への物理的な刺激(切り傷、擦り傷、打撲など)や、過去のニキビや毛嚢炎などの炎症が治る過程で、毛穴の構造が変化し、粉瘤の元となる袋が形成される。
- 細胞の異常増殖: 毛穴を構成する皮膚細胞の一部が、何らかの理由で異常に増殖し、袋状の構造物を作り出す。
これらのメカニズムによって形成された袋は、内部で常に皮膚の細胞の代謝が行われ、角質や皮脂が作られるため、袋が破れたり外科的に摘出したりしない限り、内容物は溜まり続け、粉瘤は自然に消えることなく存在し続けます。
原因不明なケースも多い
前述のようなメカニズムは推測されており、実際に多くの粉瘤が毛穴に関連して発生することが観察されていますが、特定の明確な原因が特定できないケースが非常に多いのが実情です。
これは、粉瘤が体質的な要因や、日常的な微細な刺激などが複合的に作用して発生することが多いためと考えられます。
例えば、特に目立った外傷や炎症の既往がなくとも粉瘤ができることがありますし、特定の部位に集中してできやすい人もいます。
このような場合は、遺伝的な素因や、まだ解明されていない皮膚の微細な変化などが関わっている可能性があります。
デリケートゾーンなど特定部位の原因
粉瘤は全身どこにでもできますが、特にデリケートゾーン(陰部、股間、脇など)にも比較的よく見られます。
これらの部位に粉瘤ができやすい原因としては、以下のような要因が考えられます。
- 摩擦や圧迫: 下着や衣類による慢性的な摩擦、座っていることによる圧迫などが皮膚への刺激となり、毛穴へのダメージや炎症を引き起こしやすいため。
- 蒸れ: デリケートゾーンは湿度が高く蒸れやすいため、細菌が繁殖しやすい環境であり、これが毛穴の炎症や感染を引き起こし、粉瘤の発生や炎症を誘発する可能性があります。
- 毛が濃い・毛穴が多い: これらの部位は体毛が比較的濃く、毛穴も多いため、粉瘤の発生母体となりやすい傾向があります。
- カミソリや自己処理: 自己処理による皮膚の微細な傷や炎症が、粉瘤ができるきっかけになることもあります。
特定部位にできる粉瘤も基本的なメカニズムは同じですが、その部位特有の環境要因がリスクを高めていると言えるでしょう。
デリケートゾーンの粉瘤は、痛みや腫れ、臭いなどの症状が出やすい傾向があり、日常生活への影響も大きいため、特に早めの受診が推奨されます。
粉瘤ができやすい人の特徴
粉瘤は誰にでもできる可能性がありますが、特定の体質や生活習慣、環境によってできやすい人がいます。
以下に、粉瘤ができやすいと考えられている人の特徴を挙げます。
これらの特徴に複数当てはまる方は、そうでない方に比べて粉瘤が発生するリスクが高いかもしれません。
皮脂の分泌が多い人
皮脂腺の働きが活発で、顔や背中など、皮脂の分泌が多い部位に粉瘤ができやすい傾向があります。
皮脂は毛穴を通じて皮膚表面に排出されますが、皮脂の分泌が過剰になると毛穴が詰まりやすくなり、粉瘤の発生メカニズムの一つである毛穴の閉塞につながりやすくなります。
思春期や男性など、ホルモンの影響で皮脂分泌が多い時期や性別でできやすい人がいるのはこのためと考えられます。
毛穴が詰まりやすい人
皮脂の過剰な分泌に加え、不適切なスキンケア(洗顔不足や洗いすぎ)、古い角質の蓄積などにより、毛穴が物理的に詰まりやすい人も粉瘤ができやすいと言われています。
毛穴の詰まりは、ニキビの主な原因でもありますが、粉瘤も毛穴の構造異常から発生するため、ニキビができやすい体質の人は粉瘤もできやすい傾向があります。
肌への刺激が多い人
皮膚への継続的な刺激や外傷は、粉瘤の発生を誘発する可能性があります。
例えば、以下のような状況が挙げられます。
- 衣類や下着による摩擦: 首筋や肩、腰回り、股など、衣類や下着が常に擦れる部位は皮膚に微細な刺激が加わりやすく、粉瘤ができるきっかけとなることがあります。
- 圧迫: 座り仕事が多い人のお尻や太ももなど、特定の部位が長時間圧迫される状況も刺激となりえます。
- カミソリや毛抜き: 自己処理による肌へのダメージや炎症が、毛穴の構造を変化させ、粉瘤ができる誘因となることがあります。
- 怪我や手術の痕: 過去の外傷や手術の傷跡の周辺に粉瘤ができることもあります。
- ニキビなどを無理に潰す: 炎症を起こしたニキビなどを自分で無理に潰すと、皮膚の深い部分が傷つき、粉瘤の元となる袋が形成されるリスクを高めます。
肌のターンオーバーの乱れ
肌のターンオーバーとは、皮膚細胞が一定の周期で生まれ変わる仕組みです。
このサイクルが乱れると、古い角質が皮膚表面に適切に排出されず、毛穴の周囲に蓄積しやすくなります。
これが毛穴の詰まりを引き起こし、粉瘤の発生に関与する可能性があります。
ターンオーバーの乱れは、加齢、紫外線、乾燥、睡眠不足、栄養不足、ストレスなど、様々な要因によって引き起こされます。
遺伝的な要因
粉瘤ができやすい体質が遺伝する可能性が指摘されています。
家族や親戚に粉瘤ができやすい人がいる場合、本人もできやすい傾向が見られることがあります。
特定の遺伝性疾患(例:ガードナー症候群)では多発性の粉瘤が見られますが、一般的な粉瘤の多くはこのような遺伝病とは異なり、あくまで体質的な傾向として遺伝が関与していると考えられます。
男性
一般的に、女性よりも男性の方が粉瘤ができやすいと言われています。
これは、男性ホルモンの影響で皮脂の分泌が女性よりも多い傾向があるため、毛穴が詰まりやすいことが一因と考えられます。
不規則な生活やストレスが多い人
不規則な生活習慣(睡眠不足、偏った食事)や慢性的なストレスは、全身の健康状態に影響を与えるだけでなく、ホルモンバランスの乱れや肌のターンオーバーの乱れを引き起こす可能性があります。
これらの要因が間接的に粉瘤ができやすい体質を作ったり、既存の粉瘤の炎症を誘発したりすることが考えられます。
ニキビができやすい人
前述のように、ニキビも粉瘤も毛穴に関連する皮膚の病気です。
ニキビができやすい人は、体質的に毛穴が詰まりやすかったり、皮脂分泌が多かったりする傾向があるため、粉瘤もできやすいと考えられます。
過去に粉瘤ができたことがある人
一度粉瘤ができた人は、そうでない人に比べて、別の場所に新たな粉瘤ができたり、同じ場所が再発したりするリスクが高いです。
これは、粉瘤ができやすい体質を持っていることの証拠とも言えます。
ピアスを開けている人
ピアスの穴の周囲は、皮膚が傷つきやすく、またピアス自体が皮膚への継続的な刺激となるため、粉瘤ができやすい部位の一つです。
ピアスホール周辺にできた粉瘤は、内容物が穴から出てきやすいこともあります。
これらの特徴は、あくまで粉瘤ができるリスクを高める要因であり、必ずしも粉瘤ができるわけではありません。
しかし、自身に当てはまる特徴がある場合は、粉瘤ができやすい体質かもしれないと認識し、症状が現れた際には早めに皮膚科医に相談することが重要です。
粉瘤を放置するとどうなる?
粉瘤は基本的に良性の腫瘍であり、生命に危険を及ぼすものではありません。
そのため、特に症状がなく小さいうちは様子を見る方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、粉瘤は自然に消えることはなく、放置することでいくつかのデメリットやリスクが生じる可能性があります。
徐々に大きくなる
粉瘤の袋の中には、常に皮膚細胞の代謝によって作られる角質や皮脂が溜まり続けます。
このため、時間の経過とともに内部の内容物が増加し、粉瘤自体も徐々に大きくなっていく傾向があります。
数ミリだったものが、数センチ、場合によっては10センチを超えるほど大きくなることもあります。
大きくなると、見た目が目立つようになるだけでなく、衣類や下着に擦れたり、圧迫されたりすることで炎症を起こしやすくなります。
また、手術で摘出する際も、大きくなっているほど切開範囲が大きくなり、傷跡が残りやすくなる可能性があります。
炎症や感染を起こすリスク
粉瘤の袋の中は、古い角質や皮脂という、細菌にとって格好の栄養源が豊富にあります。
粉瘤の中央に見られることのある小さな開口部や、皮膚のバリア機能が低下した箇所から細菌が侵入すると、袋の中で細菌が繁殖し、炎症を起こすことがあります。
これを「炎症性粉瘤」と呼びます。
炎症が起きると、以下のような症状が現れます。
痛みや腫れ、臭いの発生
炎症性粉瘤の主な症状は、赤み、腫れ、熱感、そして強い痛みです。
触れると痛んだり、ズキズキとした痛みが続いたりすることがあります。
また、袋の中に膿が溜まることもあります。
内容物が腐敗したり、細菌によって分解されたりすることで、独特の強い不快な臭いを発することもあります。
炎症が強い場合は、周囲の皮膚も硬く腫れあがり、まるで大きなニキビや化膿したおできのようになります。
この状態を放置すると、炎症がさらに周囲の組織に広がり、蜂窩織炎(ほうかしきえん)というより広範な皮膚の感染症を引き起こす可能性もあります。
傷跡が残りやすくなる
炎症を起こした粉瘤は、炎症が治まったとしても、皮膚に赤みや色素沈着が長く残ったり、周囲の組織が硬くなったりすることがあります。
また、炎症が強く、化膿して自然に破裂したり、切開して膿を出したりした場合、治癒する過程で周囲の皮膚組織が大きく失われたり、深い傷になったりするため、目立つ傷跡(瘢痕)が残りやすくなります。
特に顔など目立つ部位では、傷跡が審美的な問題となることがあります。
炎症を起こす前に手術で摘出できれば、通常はより小さな傷跡で済む可能性が高いです。
これらのリスクを避けるためにも、粉瘤に気づいたら、炎症を起こす前に一度皮膚科を受診し、専門医の診断を受けることが望ましいと言えます。
粉瘤を自分で潰すのは危険
粉瘤の中央にある小さな穴から、ドロドロとした内容物が出てくるのを見て、自分で押し出してしまおうと考える方がいらっしゃるかもしれません。
また、炎症を起こして腫れて痛む粉瘤を、ニキビのように自分で潰そうとする方もいます。
しかし、粉瘤を自分で無理に潰す行為は、非常に危険であり、絶対に避けるべきです。
感染症のリスク増加
自分で粉瘤を潰そうとする際、手や爪、あるいは使用する器具が清潔でない場合がほとんどです。
このような状態で皮膚を傷つけたり、無理に内容物を押し出そうとしたりすると、皮膚のバリア機能が破られて、細菌が粉瘤の袋の中に容易に侵入してしまいます。
特に、炎症を起こしている粉瘤はすでに細菌感染が始まっている可能性が高く、不衛生な手で触ることでさらに感染を悪化させてしまうリスクが非常に高いです。
重症化すると、周囲の組織に炎症が広がり、蜂窩織炎などを引き起こす可能性があります。
症状の悪化
自分で潰しても、粉瘤の袋の壁ごと内容物を完全に排出することは不可能です。
通常、出てくるのは袋の中に溜まっていた一部の内容物だけです。
無理な圧力をかけることで、袋の壁が破れてしまい、中に溜まっていた老廃物や細菌が皮膚の下の組織に広くばらまかれてしまうことがあります。
これは体にとって異物となり、強い炎症反応を引き起こします。
痛みが激しくなったり、腫れが広範囲に及んだり、発熱を伴うなど、症状が劇的に悪化する可能性があります。
また、袋の壁の一部が残っていると、そこから再び粉瘤ができてしまう(再発)原因にもなります。
傷跡の原因
自分で粉瘤を潰そうとすると、必要以上に皮膚や周囲の組織を傷つけてしまいます。
特に炎症を起こしている状態で無理に触ると、炎症が深部にまで及び、組織の損傷が大きくなります。
その結果、傷が治る過程で目立つ傷跡(瘢痕)が残ったり、ケロイド体質の方はケロイドが悪化したりするリスクが非常に高まります。
専門医による適切な処置や手術であれば、粉瘤の状態や部位に応じて、できるだけ傷跡が目立たないように配慮して行われますが、自分で潰した場合はそのような配慮ができません。
粉瘤の治療は、専門的な知識と技術が必要です。
炎症を起こしている場合や、切除が必要な場合は、必ず皮膚科を受診し、医師の指示に従ってください。
自分で触ったり潰したりせず、そのままの状態で医療機関に相談することが、症状の悪化を防ぎ、きれいに治すための最善の方法です。
粉瘤の治療方法
粉瘤の治療の基本は、外科的に粉瘤の袋ごと内容物を摘出することです。
これにより、粉瘤の再発を防ぐことができます。
しかし、粉瘤が炎症を起こしている場合は、まず炎症を抑える治療を優先することが一般的です。
手術による摘出
粉瘤の根本的な治療は、原因となっている袋(嚢腫)そのものを内容物ごと切除することです。
手術方法は、粉瘤の大きさや場所、炎症の有無などによって選択されます。
- 切開法: 従来の一般的な手術方法です。
粉瘤の皮膚の盛り上がりに沿って紡錘形(葉っぱのような形)に皮膚を切開し、粉瘤の袋全体を周囲の組織から剥がして摘出します。
ある程度の大きさの粉瘤や、炎症が軽度な場合に行われることが多い方法です。
袋を完全に摘出できるため、再発のリスクは低いですが、粉瘤の大きさに応じた傷跡が残ります。
傷口は縫合し、後日抜糸が必要です。 - くり抜き法(ヘソ抜き法、トレパン法): 比較的小さな粉瘤や、顔など傷跡を最小限に抑えたい部位によく用いられる方法です。
粉瘤の中央にある小さな開口部、あるいはその周辺を、特殊な円筒形のメス(トレパン)で小さくくり抜きます。
そこから、ピンセットなどで内容物を押し出し、その後、しぼんだ袋の壁を皮膚の下から引っ張り出して摘出します。
切開法に比べて傷口が小さく、縫合が不要な場合や、縫合しても数針で済む場合が多いです。
傷跡も目立ちにくいというメリットがありますが、完全に袋を摘出するには技術が必要であり、切開法に比べてわずかに再発のリスクが高まる可能性も指摘されています。
どちらの方法も、通常は局所麻酔を用いて日帰りで行われます。
手術時間は粉瘤の大きさや数によりますが、一つの粉瘤であれば数十分程度で終わることがほとんどです。
手術後は、傷口を保護し、指示された通りのケアを行うことが重要です。
炎症を起こした場合の処置
粉瘤が炎症を起こしている(炎症性粉瘤)場合は、通常、まず炎症を抑える治療を行います。
炎症が強い状態ですぐに袋ごと摘出する手術を行うと、周囲の組織が炎症によってもろくなっており、袋をきれいに剥がすのが難しくなったり、手術後の傷の治りが悪くなったり、感染がさらに広がったりするリスクが高いためです。
炎症性粉瘤に対する主な処置は以下の通りです。
- 抗生物質の内服・外用: 細菌感染による炎症を抑えるために、抗生物質の飲み薬や塗り薬が処方されます。
- 切開排膿(せっかいはいのう): 炎症が強く、中に膿が溜まっている場合は、局所麻酔を行い、粉瘤を小さく切開して膿を排出する処置を行います。
これにより、痛みや腫れが軽減し、炎症が速やかに落ち着きます。
切開排膿はあくまで応急処置であり、膿を出すことが目的のため、粉瘤の袋自体は残ったままです。
炎症が治まった後に、改めて袋を摘出するための手術が必要になる場合が多いです。
炎症性粉瘤の場合は、まずは皮膚科を受診し、適切な診断と治療を受けてください。
自己判断で市販薬を使用したり、放置したりすると、症状が悪化する可能性があります。
手術方法や処置については、粉瘤の状態や患者さんの希望、医師の判断によって最適な方法が選択されます。
治療について不安な点があれば、遠慮なく医師に相談しましょう。
粉瘤は何科で診てもらう?
粉瘤は、皮膚の下にできるできものであるため、専門は皮膚科です [2]。
粉瘤は皮膚科へ
粉瘤は皮膚の病気の一種です。
皮膚のできものや腫瘍に関する専門的な知識や診療経験が豊富なのは皮膚科医です。
皮膚科では、視診や触診によって粉瘤の状態を正確に診断し、炎症の有無や大きさ、場所などを考慮して最適な治療法(手術や炎症時の処置)を提案してくれます。
また、手術後の傷の管理や、再発予防に関するアドバイスなども受けることができます。
大きな病院では、皮膚科と連携して形成外科で粉瘤の摘出術を行う場合もあります。
形成外科は、体の表面の形態的な異常や変形を機能的・審美的に改善することを専門としており、特に顔など目立つ部位の粉瘤で、傷跡をよりきれいに治したいといった場合に形成外科医が手術を担当することもあります。
しかし、まずは一般的な粉瘤であれば、お近くの皮膚科クリニックを受診するのが最もスムーズです。
どの科を受診すべきか迷った場合は、まずは皮膚科を受診しましょう。
皮膚科医が診断を行い、必要に応じて他の診療科への紹介を含めて適切な医療機関を案内してくれるはずです。
粉瘤の原因や治療に関するよくある質問
粉瘤について、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をご紹介します。
粉瘤の原因はストレスですか?
ストレスが粉瘤の直接的な原因であるとは断定されていません。
しかし、長期的なストレスは、ホルモンバランスの乱れや免疫機能の低下、肌のターンオーバーの乱れなどを引き起こす可能性があります。
これらの体の変化は、間接的に粉瘤ができやすい体質を作ったり、既存の粉瘤が炎症を起こしやすくなったりすることに関与する可能性はあります。
したがって、ストレスが全く無関係とは言えませんが、唯一の原因ではなく、あくまで複合的な要因の一つとして考えられます。
粉瘤ができやすい場所はどこですか?
粉瘤は毛穴がある全身のどこにでもできますが、特にできやすい場所としては以下のような部位が挙げられます。
- 顔: 特に額、頬、耳の後ろや耳たぶなど、皮脂腺が多い部位や、皮膚が薄い部位。
- 首: 後ろ首や襟足など、髪の毛の生え際や衣類が擦れる部位。
- 背中: 皮脂腺が多く、衣類が擦れる部位。
- 耳: 耳たぶや耳の後ろなど、ピアスを開ける部位や皮脂が溜まりやすい部位。
- 脇(腋窩): 皮脂腺やアポクリン汗腺が多く、蒸れやすい部位。
- 股(鼠径部)や陰部(デリケートゾーン): 下着による摩擦や蒸れ、体毛が多い部位。
- お尻: 座っていることによる圧迫や摩擦が多い部位。
これらの部位は、皮脂腺が発達していたり、毛穴が密集していたり、物理的な刺激を受けやすかったり、蒸れやすかったりと、粉瘤ができやすい特徴を複数持っている傾向があります。
粉瘤とニキビの違いは?
粉瘤とニキビは見た目が似ていることがありますが、全く異なるものです。
- 粉瘤(アテローム): 皮膚の下にできた袋状の構造物であり、その袋の中に皮膚の老廃物(角質、皮脂)が溜まったものです。
自然に治ることはなく、袋ごと摘出しない限り存在し続けます。
炎症を起こすとニキビのように赤く腫れて痛みますが、中心に小さな穴(開口部)が見られることが多いです。 - ニキビ(尋常性ざ瘡): 毛穴に皮脂が詰まり、そこにアクネ菌が増殖して炎症を起こした状態です。
袋は形成されず、炎症が治まれば改善します。
思春期以降にホルモンバランスの影響でできやすい疾患です。
自分で判断せず、皮膚科医に診てもらうことが正確な診断と適切な治療につながります。
粉瘤は痛くないこともありますか?
はい、粉瘤は痛くないこともあります。
粉瘤自体は、袋の中に老廃物が溜まっているだけの状態では、通常痛みはありません。
しこりとして触れるだけで、特に症状がないことがほとんどです。
痛みを伴うのは、粉瘤が細菌感染を起こして「炎症性粉瘤」になった場合です。
炎症が起きると、赤く腫れて熱を持ち、強い痛みを伴うようになります。
痛みがなくても粉瘤である可能性はありますので、気になるできものがあれば、痛みがなくても皮膚科を受診することをおすすめします。
手術の費用はどれくらいですか?
粉瘤の摘出手術は、健康保険が適用される医療行為です。
費用は、粉瘤の大きさや数、手術方法(切開法かくり抜き法か)、医療機関の種類(クリニックか病院か)、加入している健康保険の種類などによって異なります。
一般的な目安としては、健康保険が適用された3割負担の場合で、数千円~数万円程度となることが多いです。
例えば、直径数センチ程度の粉瘤の摘出であれば、おおよそ1万円前後となることが一般的です。
ただし、炎症が強い場合の切開排膿処置は、手術とは別の区分になり、費用も異なります。
正確な費用については、受診する医療機関に直接お問い合わせいただくか、診察時に医師やスタッフに確認してください。
手術の跡は残りますか?
粉瘤の摘出手術では、皮膚を切開するため、必ず傷跡は残ります。
しかし、傷跡の大きさや目立ちやすさは、粉瘤の大きさ、できた場所、手術方法、そして手術後のケアや個人の体質(傷の治りやすさ、ケロイド体質など)によって大きく異なります。
- くり抜き法: 切開範囲が小さいため、傷跡も目立ちにくい傾向があります。
時間の経過とともにほとんど分からなくなることが多いです。 - 切開法: 粉瘤の大きさに応じた長さの傷跡が残ります。
医師はできるだけシワの向きなどに沿って切開するなど、傷跡が目立ちにくくなるよう配慮して手術を行いますが、ある程度の線状の傷跡が残ります。
炎症を起こした後に切開排膿した場合や、自然に破れてしまった場合は、組織の損傷が大きいため、傷跡が目立ちやすくなる傾向があります。
いずれの場合も、医師の指示通りに傷口のケアを行い、紫外線対策をしっかりと行うことで、傷跡をできるだけきれいに治すことが期待できます。
傷跡に関する不安があれば、手術前に医師とよく相談しましょう。
再発することはありますか?
粉瘤は、再発する可能性はゼロではありません。
最も多い再発の原因は、手術の際に粉瘤の袋の壁の一部が皮膚の下に残ってしまった場合です。
残った袋の壁から再び角質や皮脂が溜まり始め、新たな粉瘤として成長してしまうことがあります。
袋を完全に摘出することが、再発を防ぐための最も重要なポイントです。
また、一度粉瘤ができた人は、粉瘤ができやすい体質を持っていることが多いため、同じ場所ではなくても、体の別の場所に新たな粉瘤ができてしまう可能性も高いです。
これは再発ではなく「多発」と言えます。
手術後に、切除した部位に再びしこりや腫れが現れた場合は、早めに手術を受けた医療機関に相談することをおすすめします。
【まとめ】粉瘤の原因を知り、適切に対処しましょう
粉瘤は、皮膚の下にできる良性の腫瘍で、毛穴の一部が変化してできた袋に老廃物が溜まることで発生します。
具体的な原因が不明なことも多いですが、皮脂の分泌が多い人、毛穴が詰まりやすい人、肌への刺激が多い人、ターンオーバーが乱れている人、遺伝的な要因がある人などができやすい傾向があります。
粉瘤は自然に消えることはなく、放置すると徐々に大きくなったり、細菌感染を起こして痛みや腫れを伴う「炎症性粉瘤」になったりするリスクがあります。
炎症を起こすと、独特の臭いを発することもあり、治癒後も傷跡が残りやすくなります。
粉瘤を自分で潰すことは、感染症のリスクを高め、症状を悪化させ、傷跡をひどくする非常に危険な行為です。
絶対に避けてください。
粉瘤の根本的な治療は、手術によって粉瘤の袋ごと内容物を摘出することです。
炎症を起こしている場合は、まず抗生物質や切開排膿で炎症を抑える治療を行います。
粉瘤に気づいたら、痛みや腫れがなくても、まずは皮膚科を受診しましょう。
皮膚科医が適切な診断を行い、粉瘤の状態に合わせた最適な治療法を提案してくれます。
早期に適切な治療を受けることが、症状の悪化を防ぎ、よりきれいに治すことにつながります。
気になる症状がある方は、一人で悩まず、お近くの皮膚科にご相談ください。
免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の治療法を推奨したり、医療的なアドバイスを代替したりするものではありません。
個々の症状や治療については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。