2型糖尿病の治療やメディカルダイエットで注目されている経口薬「リベルサス」。血糖値を下げる効果が期待できる一方、服用を始めるにあたってリベルサスの副作用について不安を感じる方も少なくありません。
どのような副作用が、どのくらいの頻度で起こるのか、そして副作用が出た場合はどう対処すればよいのか。事前に知っておくことで、安心して治療を始められます。
この記事では、リベルサスで起こりうる副作用の種類、頻度、ご自身でできる対処法、そして注意すべき重篤な副作用について詳しく解説します。
リベルサスで起こりうる主な副作用
リベルサスの服用によって、いくつかの副作用が報告されています。多くは服用開始初期に現れやすい消化器系の症状で、薬に体が慣れるにつれて自然に軽快していくことがほとんどです(リベルサス錠 添付文書)。
ここでは、比較的よく見られる副作用とその対処法について解説します。
リベルサスによく見られる消化器系の副作用
リベルサスは、インスリン分泌を促し、同時に胃から内容物が排出される速度を緩やかにすることで血糖値の上昇を抑える作用があります。この作用が、吐き気や便秘といった消化器系の副作用の主な原因となります。
国内臨床試験では、以下のような消化器系の副作用が比較的高い頻度で報告されています(リベルサス錠 添付文書)。
副作用 | 頻度(国内臨床試験) |
---|---|
吐き気(悪心) | 15.8% |
下痢 | 11.2% |
便秘 | 8.7% |
腹部膨満感 | 5.4% |
腹痛 | 4.9% |
嘔吐 | 4.4% |
食欲不振 | 3.5% |
吐き気(悪心)・嘔吐について
国内の臨床試験では、リベルサス服用者のうち約15%に吐き気(悪心)が報告されており、最も頻度の高い副作用の一つです(リベルサス錠 添付文書)。特に服用を開始したばかりの時期や、薬の用量を増やしたタイミングで感じやすい傾向があります。
<対処法>
- 一度にたくさん食べず、少量ずつ回数を分けて食事をする。
- 脂っこい食事や香辛料の強い食べ物を避ける。
- ゆっくりと時間をかけて食事をする。
- 症状が辛い場合は、医師に相談し、吐き気止めを処方してもらうことも可能です。
ほとんどの場合、服用を続けるうちに症状は落ち着いていきます。
下痢や便秘の症状と対処
吐き気に次いで、下痢(約11%)、便秘(約9%)も比較的よく見られる副作用です(リベルサス錠 添付文書)。これも胃腸の動きが変化することによって引き起こされます。
<対処法>
- 下痢の場合:脱水症状を防ぐため、こまめに水分補給を心がけましょう。消化の良い、おかゆやうどんなどを選ぶのがおすすめです。
- 便秘の場合:水分を多めに摂り、食物繊維の豊富な野菜や海藻類を意識して食事に取り入れましょう。軽い運動も腸の動きを活発にするのに役立ちます。
症状が長引く、または日常生活に支障が出るほど辛い場合は、自己判断で市販の下剤や下痢止めを使わず、必ず医師に相談してください。
腹痛・腹部膨満感の原因と対応
胃の中に食べ物が長く留まることで、腹痛やお腹の張り(腹部膨満感)を感じることがあります。通常は軽度ですが、痛みが強い場合は他の疾患の可能性も考えられます。
<対処法>
- 食事は腹八分目を心がけ、よく噛んで食べる。
- 炭酸飲料を避ける。
- 我慢できないほどの強い腹痛や、嘔吐を伴う場合は、次に解説する重篤な副作用の可能性もあるため、速やかに医療機関を受診してください。
食欲不振とその影響
リベルサスには食欲を抑制する作用があるため、食欲不振は副作用であると同時に、薬理作用の一つとも言えます。これが体重減少効果につながりますが、極端に食事量が減ってしまうと、栄養不足や体力の低下を招く恐れがあります。
<対処法>
- 無理に食べようとせず、少量でも栄養価の高いものを摂るように工夫する。(例:プロテイン、栄養補助食品など)
- 食べやすいと感じるもの(ゼリーやスープなど)から試してみる。
- 必要な栄養が摂れているか不安な場合は、医師や管理栄養士に相談しましょう。
その他の一般的な副作用
消化器症状以外にも、以下のような副作用が報告されています。
めまいや倦怠感を感じたら
服用初期に、めまいやだるさ(倦怠感)を感じることがあります。急に立ち上がったり、体の向きを変えたりする際にふらつきやすい場合は注意が必要です。車の運転や危険を伴う機械の操作は、症状が落ち着くまで控えるようにしましょう。
低血糖に注意が必要なケース
リベルサスは血糖値が高い時にだけインスリン分泌を促すため、単独での使用では重篤な低血糖を起こす可能性は低いとされています(リベルサス錠 添付文書)。
しかし、以下のような場合は低血糖のリスクが高まるため注意が必要です(リベルサス錠 添付文書, RYBELSUS FDA label)。
- 他の糖尿病治療薬(特にSU剤やインスリン製剤)と併用している場合
- 食事を抜いたり、極端な糖質制限をしたりした場合
- 激しい運動をした後
- 過度なアルコール摂取
- シックデイ(発熱や下痢、嘔吐などで体調を崩しているとき)
<低血糖の主な症状>
冷や汗、動悸、手足の震え、強い空腹感、ふらつき、力が入らない、意識がぼんやりするなど。
これらの症状を感じたら、すぐにブドウ糖や糖分を含むジュースなどを摂取してください。意識が朦朧とするなど重篤な場合は、すぐに周囲に助けを求め、医療機関を受診する必要があります。
リベルサス服用中に注意すべき重篤な副作用
頻度は非常に稀ですが、命に関わる可能性のある重篤な副作用も報告されています。以下の症状が見られた場合は、直ちにリベルサスの服用を中止し、速やかに医療機関を受診してください。
急性膵炎の初期症状とリスク
急性膵炎は、膵臓に急激な炎症が起こる病気です。リベルサスを含むGLP-1受容体作動薬全般で、海外市販後において急性膵炎が報告されており、注意喚起がされています(リベルサス錠 添付文書)。
<注意すべき初期症状>
- 持続的な激しい腹痛(特に上腹部や背中に広がる痛み)
- 繰り返す嘔吐
- 背中の痛み
- 発熱
これらの症状は食後に悪化することがあります。少しでも疑わしい場合は、ためらわずに救急外来を受診することも検討してください。膵炎の既往がある方やアルコール多飲の方は、特に注意が必要です(リベルサス錠 添付文書)。
腸閉塞の兆候と緊急性
腸閉塞は、腸管の内容物が流れなくなる状態です。リベルサスの胃内容物排出抑制作用との関連が指摘されており、まれに報告されています(リベルサス錠 添付文書)。
<注意すべき兆候>
- 激しい腹痛
- 繰り返す嘔吐
- 腹部膨満感
- 便やおならが全く出ない
腸閉塞は緊急手術が必要になることもある危険な状態です。これらの症状が複合して現れた場合は、夜間や休日であっても速やかに医療機関に連絡し、受診してください。
アナフィラキシーなどの過敏症反応
ごく稀に、薬に対するアレルギー反応としてアナフィラキシーショックが起こることがあります(リベルサス錠 添付文書)。
<注意すべき症状>
- 蕁麻疹、皮膚のかゆみ・赤み
- 呼吸困難、息苦しさ、のどの締め付け感
- 血圧低下、意識の低下、めまい
- まぶたや唇、舌の腫れ
これらの症状が現れたら、命の危険があるため、直ちに救急車を呼ぶなどの対応が必要です。
その他の重篤な副作用(胆嚢炎、胆石症、網膜症の悪化など)
頻度は低いものの、以下のような副作用も報告されています。
- 胆嚢炎、胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸、胆石症: 急激な体重減少は胆石形成のリスクを高めることが知られており、関連性が指摘されています(リベルサス錠 添付文書)。強い腹痛(特に右上腹部)や発熱、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)などの症状に注意が必要です。
- 糖尿病網膜症の悪化: 強化インスリン療法と同様に、血糖コントロールの急速な改善により糖尿病網膜症が悪化する可能性が指摘されています。海外での心血管アウトカム試験(SUSTAIN 6)において、プラセボ群と比較してリベルサスの有効成分であるセマグルチド投与群で糖尿病網膜症の合併症として報告されたイベントの発現割合が高かったことが報告されています(リベルサス錠 添付文書, Key CVOTs with Semaglutide: SUSTAIN 6 and PIONEER 6)。網膜症がある方は、定期的な眼科受診が推奨されます。
副作用が発生しやすい時期と要因
リベルサスの副作用は、誰にでも同じように起こるわけではありません。特に副作用が出やすいタイミングがあります。
服用開始初期の副作用
飲み始めてから1〜2ヶ月の間は、吐き気や下痢などの消化器症状が最も出やすい時期です。これは、体が薬の作用にまだ慣れていないために起こります。多くの場合は、服用を続けるうちに体が順応し、症状は徐々に軽減・消失していきます。
用量変更時の注意点
リベルサスは、副作用を軽減するために、低用量の3mgから開始し、効果や体の状態を見ながら7mg、14mgへと段階的に増量していきます。用量を増やしたタイミングで、再び副作用が現れたり、症状が強まったりすることがあります。これも一時的な反応であることが多いですが、症状が辛い場合は無理せず医師に相談しましょう。
副作用の具体的な対処法と軽減策
副作用を感じたとき、どのように対処すればよいのでしょうか。セルフケアで対応できることと、医療機関に相談すべきタイミングを知っておくことが大切ですす。
消化器症状へのセルフケア
吐き気や下痢などの軽い消化器症状に対しては、以下のような食事の工夫が有効です。
- 少量頻回食: 一度の食事量を減らし、回数を増やす。
- 消化の良い食事: 脂っこいもの、揚げ物、香辛料の強いものを避け、おかゆ、うどん、豆腐、白身魚などを中心にする。
- 水分補給: 特に下痢がある場合は、脱水を防ぐために水やお茶、経口補水液をこまめに摂る。
医療機関に相談するタイミング
以下のような場合は、自己判断で対処せず、必ず処方を受けた医療機関に相談してください。
- 副作用の症状が強く、日常生活に支障をきたす場合
- セルフケアを試しても症状が改善しない、または悪化する場合
- 我慢できないほどの強い腹痛や、繰り返し嘔吐するなど、重篤な副作用が疑われる症状がある場合(この場合は速やかに受診)
- 副作用が不安で、自己判断で服用を中止したいと考えた場合
医師に相談することで、吐き気止めなどの対症療法薬の処方や、リベルサスの用量調整、他の薬への変更など、適切な対応を検討してもらえます。
リベルサス服用に関する重要な注意点
副作用のリスクを最小限に抑え、安全に治療を続けるためには、いくつかの重要な注意点を守る必要があります。
正しい飲み方と副作用予防
リベルサスは非常にデリケートな薬で、飲み方を守らないと効果が十分に得られないだけでなく、副作用のリスクにも影響する可能性があります。特に、胃の中に食べ物や水分が多いと薬の吸収が著しく妨げられてしまうため、正しい服用方法を守ることが重要です(リベルサス錠 添付文書)。
【リベルサスの正しい飲み方】
- 1日のうちの最初の食事・飲水の前に(起床後の空腹時に)服用する。
- コップ半量(約120mL以下)の水で1錠を服用する。
- 服用後、少なくとも30分は飲食や他の薬の服用を避ける。
併用してはいけない薬・注意が必要な薬
リベルサスと一緒に服用することで、効果に影響が出たり、副作用のリスクが高まったりする薬があります(リベルサス錠 添付文書, RYBELSUS FDA label)。
- 血糖値を下げる薬(SU薬、インスリンなど): 併用すると低血糖のリスクが高まります。用量調整が必要になる場合があります。
- 甲状腺ホルモン製剤(レボチロキシンなど): リベルサスがこれらの薬の吸収を遅らせる可能性があります。時間をずらして服用するなどの調整が必要です。
- 経口避妊薬: リベルサスが経口避妊薬の吸収に影響を与える可能性が示唆されています。
現在服用中の薬やサプリメントがある場合は、必ず医師や薬剤師に伝えてください。お薬手帳を活用すると、情報を正確に伝えられます。
服用に注意が必要な患者さん(特定の疾患)
以下のような既往歴や疾患がある方は、リベルサスの服用が適さない場合や、特に慎重な経過観察が必要となる場合があります(リベルサス錠 添付文書)。
- 膵炎の既往歴がある方
- 重度の胃腸障害(胃潰瘍、炎症性腸疾患など)がある方
- 糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡または前昏睡の方
- 重度の腎機能障害、肝機能障害のある方
- 妊娠中、授乳中、または妊娠を希望している方
該当する方は、必ず事前に医師に申し出てください。
リベルサスの服用をやめた場合の影響(副作用関連)
副作用が辛いなどの理由で服用を中止すると、副作用の症状は改善することがほとんどです。しかし、自己判断で急に服用をやめてしまうと、抑えられていた血糖値が再び上昇し、糖尿病の状態が悪化するリスクがあります。
服用をやめたいと感じた場合は、まず処方医に相談し、その後の治療方針について話し合うことが非常に重要です。
リベルサスの副作用について医療機関に相談しましょう
リベルサスは、2型糖尿病の治療において有効な選択肢の一つですが、他の多くの薬と同様に副作用のリスクも伴います。最も多いのは吐き気などの消化器症状で、多くは一時的なものですが、稀に重篤な副作用が起こる可能性もゼロではありません。
大切なのは、副作用について正しく理解し、気になる症状があれば一人で抱え込まず、すぐに医師や薬剤師に相談することです。適切な対処を行うことで、安全に治療を継続し、リベルサスがもたらすメリットを最大限に享受することができます。
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免責事項:
この記事は、リベルサスの副作用に関する一般的な情報を提供するものであり、医学的なアドバイスに代わるものではありません。治療に関する決定は、必ず専門の医師の診断と指導に基づいて行ってください。