ほくろは多くの人に存在する皮膚の良性の変化ですが、「増えた」「大きくなった」「形が変わった」といった変化に気づくと、不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。
特に急に数が増えたり、今までなかった場所にできたりすると、「何か病気なのでは?」と心配になるかもしれません。
ほくろが増えることは、多くの場合、皮膚の正常な生理現象や体質の変化によるものですが、中には注意が必要なケースも存在します。
この記事では、ほくろが増える主な原因から、急に増えた場合に考えられる病気の可能性、危険なほくろの見分け方、そして部位別の特徴や予防策まで、皮膚科医監修のもと詳しく解説します。
気になるほくろがある方は、ぜひ最後までお読みいただき、ご自身の状況を理解する手助けとしてください。
ただし、この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断を行うものではありません。
ご自身のほくろについて気になる点があれば、必ず専門の医療機関である皮膚科を受診し、医師の診断を受けるようにしてください。
ほくろが増える主な原因を知る
ほくろ(医学的には色素性母斑や母斑細胞母斑と呼ばれます)は、皮膚の一部にメラニン色素を持つメラノサイト(色素細胞)が集まってできた良性の病変です。
その数は個人差が大きく、年齢によっても変化します。
では、なぜほくろは増えるのでしょうか。
その主な原因について解説します。
なぜほくろは増えるのか?メラノサイトの働き
ほくろができる直接的な原因は、皮膚の表皮と真皮の境界付近にあるメラノサイトが局所的に増殖・活性化し、メラニン色素を過剰に生成・蓄積することです。
通常、メラノサイトは皮膚の色を作るために均等に存在していますが、何らかの刺激や体内の変化によって一部のメラノサイトが活性化し、増殖することでほくろとなります。
このメラノサイトの活動は、様々な要因によって影響を受けます。
例えば、皮膚が外部からの刺激(特に紫外線)を受けると、メラノサイトは肌を守るためにメラニン色素を生成しますが、これが過剰になったり、特定の部位で細胞が増えたりするとほくろにつながることがあります。
また、体内のホルモンバランスの変化などもメラノサイトの活性に影響を与えることが知られています。
このように、ほくろが増えるというのは、メラノサイトの活動や増殖が活発になることが原因であり、これは外部環境や体内部の様々な要因が複合的に関与していると考えられます。
ほくろが増える原因【紫外線】
ほくろが増える最も一般的な原因の一つが紫外線です。
紫外線(特にUVB)は皮膚のDNAに損傷を与え、これを修復する過程でメラノサイトが活性化され、メラニン色素の生成が促進されます。
これは皮膚を紫外線から守るための生体防御反応ですが、長期的に強い紫外線を浴び続けたり、急激な日焼けを繰り返したりすると、メラノサイトが異常に増殖しやすくなり、新しいほくろができたり、既存のほくろが濃くなったり大きくなったりすることがあります。
特に、顔や腕など日常的に紫外線にさらされやすい部位は、ほくろができやすい傾向があります。
子ども時代の強い日焼けが、後年になってほくろやシミとして現れることも少なくありません。
紫外線は皮膚の老化も促進するため、加齢による皮膚の変化と相まってほくろが増える要因となります。
紫外線対策は、ほくろの増加を防ぐだけでなく、シミやシワといった光老化の予防、さらには皮膚がんの予防にとっても非常に重要です。
年間を通して日焼け止めを使用し、帽子や衣類で肌を保護するなどの対策を心がけましょう。
ほくろが増える原因【ホルモンバランスの乱れ】
ホルモンバランスの変化も、ほくろの発生や増加に大きく関わることが知られています。
特に女性の場合、女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)の分泌量が増加する時期にほくろが増えやすい傾向があります。
思春期:
ホルモン分泌が活発になる思春期は、体が大きく変化する時期であり、この頃に新しいほくろができたり、既存のほくろが目立つようになったりすることがよくあります。
妊娠・出産:
妊娠中は女性ホルモンの分泌量が著しく増加するため、妊娠中にほくろやシミが増えたり濃くなったりすることは非常に一般的です。
「妊娠性肝斑」と呼ばれるシミも、このホルモン変動が原因です。
多くの場合、出産後にホルモンバランスが落ち着くと、これらの色素沈着は薄くなる傾向がありますが、一部は残ることがあります。
更年期:
ホルモンバランスが再び大きく変化する更年期にも、ほくろやシミが増えることがあります。
このように、ライフステージにおけるホルモンバランスの変動は、メラノサイトの活動を刺激し、ほくろの発生や変化を促す要因となります。
ほくろが増える原因【加齢・体質】
年齢を重ねることも、ほくろが増える一つの要因です。
赤ちゃんにはほとんどほくろがありませんが、成長とともに増え始め、思春期から青年期にかけて最も数が増えると言われています。
その後、壮年期にかけて数が増え続け、高齢になると数が減る傾向がありますが、代わりに脂漏性角化症(老人性いぼ)など、見た目がほくろと似た他の皮膚病変が増えることがあります。
加齢によって皮膚のターンオーバー(細胞の生まれ変わり)のサイクルが遅くなることも、メラニン色素が皮膚に蓄積しやすくなり、ほくろやシミが増える原因となります。
また、皮膚の弾力性が失われたり、血管が弱くなったりすることも、ほくろの見え方に影響を与える可能性があります。
さらに、ほくろの数やできやすさには、遺伝的な体質も大きく影響します。
家族にほくろが多い人がいる場合、ご自身もほくろができやすい体質である可能性があります。
肌の色が白い人や、元々そばかすができやすい人も、紫外線による影響を受けやすく、ほくろが増えやすい傾向があると言われています。
体質的な要因は変えることが難しいですが、体質を知ることで、より適切な紫外線対策やスキンケアを意識することができます。
ほくろとストレスとの関係
直接的に「ストレスがほくろを増やす」という明確な医学的メカニズムはまだ十分に解明されていません。
しかし、ストレスが体の様々なシステムに影響を与えることから、間接的にほくろの増加に関与している可能性が考えられます。
ストレスはホルモンバランスを乱すことが知られています。
特に副腎皮質から分泌されるコルチゾールなどのストレスホルモンは、他のホルモン分泌にも影響を与え、これがメラノサイトの活性化につながる可能性が示唆されています。
また、ストレスによって自律神経のバランスが崩れると、血行不良や免疫機能の低下を招くことがあり、これも皮膚の健康状態に影響し、結果としてほくろができやすい環境を作るかもしれません。
さらに、ストレスが溜まると、睡眠不足や偏った食事、喫煙といった不健康な生活習慣に陥りやすくなります。
これらの生活習慣の乱れは、皮膚の健康状態を悪化させ、間接的にほくろの増加を招く要因となる可能性があります。
生活習慣の乱れとほくろ
前述の通り、生活習慣の乱れは皮膚の健康に様々な悪影響を及ぼし、ほくろの増加にも間接的に関わることがあります。
睡眠不足:
睡眠中に分泌される成長ホルモンは、皮膚細胞の修復や再生を促します。
睡眠不足はターンオーバーの乱れにつながり、メラニン色素の排出が滞ることでほくろやシミが目立ちやすくなります。
偏った食事:
ビタミン(特にビタミンCやE)、ミネラル、タンパク質といった栄養素は健康な皮膚を作るために不可欠です。
これらの栄養素が不足すると、皮膚の抵抗力が低下し、メラノサイトが刺激を受けやすくなる可能性があります。
また、抗酸化作用のある栄養素(ビタミンC, E, ポリフェノールなど)が不足すると、紫外線などによる酸化ダメージから肌を守る力が弱まります。
喫煙:
タバコに含まれる有害物質は、血行を悪くし、肌のターンオーバーを遅らせます。
また、肌の老化を促進する活性酸素を増加させるため、ほくろやシミができやすくなる要因となります。
過度な飲酒:
アルコールは体内で分解される際にアセトアルデヒドを生成し、これが活性酸素を増やしたり、肌の栄養素の吸収を妨げたりすることがあります。
これらの生活習慣の乱れは、単独でほくろを増やすというよりは、肌全体の健康状態を低下させ、紫外線などの外部刺激に対する抵抗力を弱めることで、間接的にほくろの増加を招く可能性があります。
バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動といった健康的な生活習慣は、肌の健康を保ち、ほくろの増加を抑制するためにも重要です。
急にほくろが増えたと感じたら
「最近急にほくろが増えた気がする」「短期間に新しいほくろがたくさんできた」と感じたとき、多くの方は不安になるでしょう。
急なほくろの増加は、単なる体質や環境の変化によるものも多いですが、中には注意が必要な病気のサインである可能性もゼロではありません。
このセクションでは、急なほくろ増加の背景にある可能性と、特に注意すべき点について解説します。
急にほくろができるのはなぜ?
新しいほくろが急にできるのは、皮膚の一部のメラノサイトが活性化し、短期間に増殖するためです。
前述したように、紫外線による急激な刺激や、ホルモンバランスの急な変化などが引き金となることがあります。
例えば、強い日差しを浴びた後に新しいほくろがいくつかできる、妊娠を機にほくろが増える、といったケースは比較的よく見られます。
また、思春期のように体の成長が著しい時期には、皮膚も成長し、それに伴ってメラノサイトも活動を活発化させるため、ほくろが急に増えたように感じることがあります。
これは多くの人に見られる自然な変化です。
しかし、ごく稀に、病気が原因で急激にほくろが増えるように見えることがあります。
そのため、急な変化に気づいた場合は、そのほくろの見た目(形、色、大きさ)や、他に症状がないかなどを確認し、必要であれば医療機関を受診することが大切です。
増えたほくろが病気(悪性腫瘍)の可能性
ほくろの多くは良性ですが、ごく稀に、皮膚がんの一種である「悪性黒色腫(メラノーマ)」やその他の皮膚がん(基底細胞がん、有棘細胞がんなど)が、一見ほくろのように見えることがあります。
特に、急に大きくなったり形が変わったりするほくろには注意が必要です。
悪性黒色腫は、メラノサイトが悪性化したもので、進行が早く、転移しやすい危険な皮膚がんです。
初期の悪性黒色腫は、既存のほくろと区別がつきにくいこともありますが、多くの場合、新しい病変として発生します。
急にほくろが増えたと感じる場合、その中に悪性黒色腫のような危険なほくろが紛れていないかを確認することが重要です。
ただし、短期間にできたほくろの全てが悪性である可能性は極めて低く、過度に心配する必要はありません。
大切なのは、「いつもと違う」と感じるほくろや、特定の見た目のほくろに気づくことです。
危険なほくろの見分け方【セルフチェック】
悪性黒色腫などの危険なほくろと良性のほくろを見分けるための、比較的簡単なセルフチェック方法として「ABCDE法則」が広く知られています。
気になるほくろがある場合は、この法則を参考に観察してみてください。
A: Asymmetry(非対称性)
良性のほくろは比較的円形や楕円形で左右対称であることが多いですが、悪性のほくろは形がいびつで、左右対称でないことがあります。
ほくろの中心を通る線で二つに分けてみたときに、形が大きく異なる場合は注意が必要です。
B: Border(境界)
良性のほくろは輪郭がはっきりとして滑らかですが、悪性のほくろは境界が不明瞭でギザギザしていたり、にじんだように見えたりすることがあります。
C: Color(色調)
良性のほくろは通常、色が均一で単色(薄い茶色から黒色)ですが、悪性のほくろは色が均一ではなく、濃淡があったり、複数の色が混じっていたり(黒、茶、肌色、ピンク、白、青など)することがあります。
D: Diameter(直径)
悪性黒色腫は、初期の段階でも比較的大きいことが多いと言われています。
一般的に、直径が6mmを超えるものは注意が必要とされています。(ただし、小さくても悪性のものや、良性でも大きいほくろもあります。)
E: Evolution(変化)
最も重要なのが「変化」です。
短期間にほくろの大きさ、形、色、表面の状態(隆起してきた、出血してきた、かゆみがあるなど)が変化する場合は、悪性の可能性も考慮し、速やかに皮膚科を受診すべきです。
このABCDE法則はあくまで目安です。
これらの特徴が一つでも当てはまるからといって必ずしも悪性というわけではありませんが、注意深く経過を観察するか、皮膚科医に相談することをお勧めします。
皮膚がんとほくろの見分け方
悪性黒色腫以外の皮膚がんも、初期にはほくろと間違えやすいことがあります。
代表的なものに基底細胞がんや有棘細胞がんがあります。
これらの皮膚がんと良性のほくろを区別するのは専門的な知識が必要ですが、一般的な傾向として以下の違いがあります。
特徴 | 良性のほくろ(色素性母斑) | 悪性黒色腫(メラノーマ) | 基底細胞がん | 有棘細胞がん |
---|---|---|---|---|
発生 | 幼少期から思春期に多く発生 | 新しくできることが多いが、既存のほくろから変化する場合も | 中高年以降の顔によく発生 | 日光を浴びた部位に多く発生、前がん病変から発生も |
形 | 円形や楕円形、比較的左右対称 | いびつ、非対称 | 光沢のある小さな隆起、潰瘍になることも | 硬いしこりやただれ、角化を伴うことも |
境界 | はっきりしている、滑らか | 不明確、ギザギザしている | はっきりしていることが多い | 不明確なことも |
色調 | 均一(茶色から黒) | 均一でない、複数の色が混じる(黒、茶、ピンク、青など) | 黒っぽいことが多いが、肌色の場合もある | 赤っぽい、肌色 |
大きさ | 様々(小さいものが多いが、大きいものもある) | 6mmを超えるものが多い(小さいものもある) | 数mmからゆっくり大きくなる | 数mmから大きくなる |
表面 | 滑らか、盛り上がっているもの、毛が生えているものも | 潰瘍、出血、かさぶたを伴うことも | 中心がくぼんで潰瘍になることが多い | 表面が崩れやすい、角化したりただれたり |
進行速度 | 遅い、または変化しない | 比較的速い | 遅い | 比較的遅い |
かゆみ・痛み | 通常なし | ある場合がある | 通常なし | ある場合がある |
基底細胞がんは、顔にできやすく、光沢のある盛り上がりや、中心がくぼんで出血しやすい特徴があります。
有棘細胞がんは、日光を浴びた頭や顔、手の甲などにできやすく、硬いしこりやただれ、表面が角化してざらつくといった特徴が見られます。
これらの病変も、初期にはほくろと見間違えることがあるため、見た目の変化や気になる症状がある場合は、自己判断せずに皮膚科医に相談することが最も重要です。
急にできたほくろの経過観察と受診目安
急にできたほくろの多くは良性であり、すぐに病気を心配する必要はありません。
しかし、前述のABCDE法則を参考に、定期的にセルフチェックを行い、経過を観察することが大切です。
経過観察のポイント:
記録:
ほくろの写真を撮っておくと、後で変化があった際に比較しやすくなります。
定規と一緒に撮ると大きさが分かりやすいでしょう。
定期的なチェック:
月に一度など、定期的に全身のほくろをチェックする習慣をつけましょう。
特に、自分では見えにくい背中などは、家族に見てもらうか、合わせ鏡を使って確認します。
変化に注意:
大きさ、形、色、表面の状態、かゆみや痛みなどの症状に変化がないか注意深く観察します。
皮膚科を受診すべき目安:
以下のいずれかに当てはまる場合は、自己判断せずに速やかに皮膚科を受診しましょう。
ABCDE法則のいずれかに当てはまる特徴があるほくろ:
特にA(非対称性)、B(境界の不明瞭さ)、C(色調の変化・不均一)、E(短期間での変化)は重要なサインです。
短期間に大きさが急激に変化した(特に数ヶ月で大きくなった)
盛り上がりが急に出てきた、表面が崩れて出血しやすい
ほくろの周りが炎症を起こしている、かゆみや痛みがある
直径が6mmを超えるもの
手足の裏や爪にできたほくろで、色が濃くなったり、線状に広がったりしている
多数の新しいほくろが短期間に広範囲にできた
どうしても気になる、不安を感じる
皮膚科医は、ダーモスコープという特殊な拡大鏡を使ってほくろの状態を詳しく観察したり、必要に応じて一部を採取して病理検査を行ったりすることで、良性か悪性かを診断することができます。
早期発見・早期治療が重要な病気もあるため、少しでも気になるほくろがある場合は、ためらわずに専門医に相談しましょう。
ほくろが増えやすい体の部位と特徴
ほくろは体のどの部位にもできる可能性がありますが、部位によってできやすさや特徴が異なることがあります。
これは、その部位の皮膚の特性、紫外線曝露量、摩擦や刺激の受けやすさなどが関係していると考えられます。
顔にほくろが増える原因
顔は体の中でも最も日常的に紫外線にさらされる部位です。
そのため、紫外線によるメラノサイトの刺激を受けやすく、ほくろができやすい代表的な部位と言えます。
特に鼻や頬骨の上など、顔の中でも高い位置はより多くの紫外線を浴びるため、ほくろやシミ(老人性色素斑)ができやすい傾向があります。
また、顔はメイクや洗顔、髭剃りなど、日常的に摩擦や刺激を受ける機会が多い部位でもあります。
こうした物理的な刺激も、皮膚に負担をかけ、メラノサイトの活動に影響を与える可能性が示唆されています。
顔にできるほくろは、平らなものから盛り上がったものまで様々です。
中高年以降に顔にできる黒や茶色の盛り上がった病変は、ほくろではなく脂漏性角化症であることも多いですが、見た目が似ているため皮膚科医による診断が必要です。
お腹や背中にほくろが増える原因
お腹や背中は普段服で覆われているため、顔や腕に比べて直接的な紫外線曝露は少ない部位です。
しかし、思春期や妊娠期など、ホルモンバランスが大きく変動する時期には、全身のほくろが増えやすくなる傾向があり、お腹や背中にも新しいほくろができることがあります。
また、下着や衣類による摩擦、汗によるムレなども皮膚に負担をかけ、ほくろができやすい環境を作る可能性があります。
特に背中は、自分では見えにくいため、気づかないうちにほくろが変化していたというケースも起こり得ます。
入浴時などに意識してチェックしたり、家族に見てもらったりすることが大切です。
お腹や背中のほくろは、比較的大きく成長したり、盛り上がったりするものも見られます。
これらの部位にできるほくろも、急な変化がないか注意深く観察する必要があります。
腕や脚にほくろが増える原因
腕や脚(特に手の甲、足の甲、すねなど)は、顔と同様に日常生活で紫外線にさらされやすい部位です。
特に夏場など露出が増える時期には、集中的な紫外線ダメージを受けやすくなります。
この紫外線曝露が、腕や脚のほくろ増加の主な原因の一つです。
また、腕や脚は外的刺激を受ける機会も比較的多い部位です。
虫刺され、切り傷、火傷などの皮膚の損傷は、その後の治癒の過程で炎症後色素沈着が生じたり、メラノサイトが活性化したりすることがあり、これがほくろのように見える病変につながる可能性もゼロではありません。
特に注意が必要なのは、手足の裏や指、爪などにできるほくろです。
これらの部位にできる悪性黒色腫は、他の部位にできるものと比べて診断が遅れやすい傾向があります。
手足の裏にできたほくろが短期間に大きくなる、色が濃くなる、境界が不明瞭になる、爪に黒い線が入って広がる、といった変化が見られた場合は、速やかに皮膚科を受診してください。
たとえ小さくても、これらの部位のほくろの変化は特に注意が必要です。
ほくろの増加を予防するためにできること
ほくろができる原因には体質や加齢といった避けられないものもありますが、紫外線や生活習慣といった、ある程度コントロールできる要因も存在します。
これらの要因に適切に対処することで、ほくろの新たな発生を抑制したり、既存のほくろの悪化を防いだりすることが期待できます。
日頃からできる紫外線対策
紫外線はほくろが増える主な原因の一つであるため、徹底した紫外線対策はほくろの予防に非常に重要です。
日焼け止めを正しく使う:
SPFとPA表示を確認し、使用目的に合ったものを選びます。
日常生活ではSPF30/PA++程度で十分ですが、屋外での活動やレジャーではSPF50+/PA++++といった高い数値のものを選びましょう。
表示されている効果を発揮するためには、十分な量をムラなく塗ることが重要です。
顔全体でパール粒2個分程度が目安と言われています。
汗や摩擦で落ちてしまうため、2〜3時間おきに塗り直すことが推奨されます。
曇りの日や冬でも紫外線は降り注いでいるため、年間を通して使用することが望ましいです。
物理的に紫外線を避ける:
日差しが強い時間帯(午前10時〜午後2時頃)の外出はなるべく避けるか、短時間にしましょう。
つばの広い帽子や日傘を使用し、顔や首を日差しから守ります。
UVカット機能のある衣類やサングラスを活用しましょう。
特に色の濃い服や目が詰まった生地の服は、紫外線を通しにくい性質があります。
ホルモンバランスや生活習慣の改善
ホルモンバランスの大きな変動は自分でコントロールするのが難しいですが、生活習慣を整えることで、ホルモンバランスの乱れを最小限に抑えたり、肌の健康状態を良好に保ったりすることが可能です。
バランスの取れた食事:
肌の材料となるタンパク質、ターンオーバーを助けるビタミンB群、抗酸化作用のあるビタミンC・E、血行促進に役立つビタミンEなどを積極的に摂取しましょう。
野菜、果物、穀物、魚、肉などをバランス良く取り入れた食事を心がけます。
メラニン色素の生成を抑える効果が期待できる食品(ビタミンCを多く含む柑橘類、アセロラ、ブロッコリーなど)もありますが、特定の食品だけを過剰に摂取するのではなく、全体的な栄養バランスが重要です。
アルコールやカフェインの過剰摂取、高脂肪・高糖質の偏った食事は、肌に負担をかける可能性があるため控えめにしましょう。
十分な睡眠:
睡眠不足は肌の修復や再生を妨げます。
毎日質の良い睡眠を7〜8時間程度取ることを目指しましょう。
寝る前にカフェインを避けたり、寝室環境を整えたりするなど、快眠のための工夫を取り入れましょう。
ストレス解消:
ストレスはホルモンバランスや自律神経を乱し、肌の健康状態を悪化させる可能性があります。
適度な運動、趣味、リラクゼーションなど、ご自身に合った方法でストレスを解消しましょう。
適度な運動:
運動は血行を促進し、肌の隅々まで栄養や酸素を届けやすくします。
また、ストレス解消にもつながります。
ウォーキングやジョギングなど、無理なく続けられる運動を取り入れましょう。
禁煙:
喫煙は肌の老化を早め、血行を悪化させます。
禁煙は、ほくろだけでなく、シミ、シワ、肌のハリといった肌全体の健康にとって非常に重要な予防策です。
これらの生活習慣の改善は、ほくろの予防だけでなく、全身の健康維持にもつながります。
できることから少しずつ取り入れていきましょう。
ほくろに関するよくある質問
ほくろは自然に消えることはありますか?
一般的な色素性母斑としてのほくろが、自然に完全に消えることは基本的に稀です。
一度形成されたメラノサイトの集まりが自然に分解されてなくなるということは通常ありません。
しかし、見た目がほくろと似ている他の皮膚の病変の中には、時間とともに薄くなったり消えたりするものもあります。
例えば、炎症後色素沈着といって、ニキビや傷の後にできる一時的な色素沈着は、時間とともに徐々に薄れて消えることが多いです。
また、若い頃にできた平らなほくろが、加齢とともに少し盛り上がってきたり、逆に色が薄くなったり目立たなくなったり、毛が生えてきたりすることはあります。
これはメラノサイトが皮膚の深い方に移動するなど、組織学的な変化によるものです。
また、ごく一部では、悪性黒色腫が自然に小さくなったり、色の一部が薄くなったりすることが報告されていますが、これは非常に稀な現象であり、悪化のサインである可能性も高いため、安易に「消えるかも」と自己判断することは危険です。
まとめると、典型的な良性のほくろが完全に自然に消えることは稀であり、もし気になる変化が見られた場合は、自然に消えるのを待つのではなく、皮膚科医に相談するのが安全です。
ほくろが増え始めるのは何歳くらいからですか?
ほとんどの人は、生まれた時にはほとんどほくろがありません。
ほくろは成長とともにでき始め、一般的に幼児期後半から増え始め、思春期から青年期(20代頃)にかけて最も数が増えると言われています。
この時期は体の成長が著しく、ホルモンバランスも大きく変動するため、メラノサイトの活動が活発になることが関係しています。
その後も壮年期にかけて緩やかに数が増える傾向がありますが、高齢になると、むしろ数が減ったり、平らだったほくろが盛り上がってきたり、色が薄くなったりといった変化が見られることがあります。
これは、メラノサイトが表皮から真皮へ移動したり、細胞自体が減少したりするためと考えられています。
ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、個人差が非常に大きいものです。
生まれつき大きなほくろがある人もいれば、大人になってから急にたくさんのほくろができる人もいます。
加齢に伴ってできる脂漏性角化症(老人性いぼ)をほくろと勘違いして、「高齢になってからほくろが増えた」と感じる人もいます。
増え続けるほくろをどうすればいいですか?
ほくろが増え続けていること自体は、多くの場合、前述したような体質や加齢、ホルモンバランス、紫外線などの影響による自然な生理現象であり、病気ではありません。
良性のほくろが多数あること自体は、健康上の問題になることはほとんどありません。
ただし、増え続けているほくろの中に、前述のABCDE法則に当てはまるような「悪性を疑う変化」を示しているものがないか、定期的にセルフチェックを行い、注意深く観察することが重要です。
もし、見た目の変化(大きさ、形、色)が気になるほくろがある場合や、短期間に急激に数が増え、特定のほくろに不安を感じる場合は、自己判断せずに皮膚科を受診することをお勧めします。
皮膚科医は、ダーモスコピーなどの診断ツールを用いてほくろの状態を詳しく診察し、良性か悪性かを判断してくれます。
必要であれば、病理検査のために組織の一部を採取することもあります。
増え続けるほくろ自体が医学的に問題がなくても、美容的な観点から気になる場合は、除去を検討することも可能です。
ほくろの除去は、炭酸ガスレーザーを用いた方法や、メスで切除する方法などがあります。
どちらの方法が適しているかは、ほくろの大きさ、深さ、種類、できた場所などによって異なります。
ほくろの除去方法(一般的なもの)
除去方法 | 特徴 | メリット | デメリット | 保険適用 |
---|---|---|---|---|
レーザー治療 | 炭酸ガスレーザーなどでほくろを焼いて削る方法。 主に小さくて平らな、あるいは少し盛り上がったほくろに適用。 |
傷跡が目立ちにくい。 出血が少ない。 短時間で処置が可能。 |
大きいほくろや深いほくろには不向き。 再発の可能性。 一時的な色素沈着の可能性。 |
基本的に自費診療(※) |
切除手術 | メスでほくろを含む皮膚を切り取り、縫合する方法。 | 大きなほくろや深いほくろ、悪性が疑われるほくろにも適用可能。 再発のリスクが低い。 |
縫合するため傷跡が残る可能性。 処置時間やダウンタイムがレーザーより長い場合がある。 |
病変の種類や目的によっては保険適用(※) |
(※)美容目的の場合は基本的に自費診療ですが、医学的な診断に基づき治療が必要と判断される場合や、悪性が疑われる場合の検査・治療は保険適用となります。
具体的な適用範囲については、医師にご確認ください。
どの方法が適切か、また保険が適用されるかについては、皮膚科医の診断と相談が必要です。
まずは気になるほくろについて相談し、そのほくろが医学的に問題ないかを確認した上で、除去を希望する場合は美容的な治療について相談すると良いでしょう。
まとめ:気になるほくろは皮膚科医へ相談
ほくろが増えることは、多くの場合、紫外線、ホルモンバランスの変化、加齢、体質といった様々な要因が複合的に関与する、皮膚の自然な変化です。
特に思春期や妊娠期にほくろが増えるのはよく見られる現象です。
しかし、急にできたほくろの中に、悪性黒色腫などの皮膚がんが紛れている可能性もごく稀ながら存在します。
短期間での変化(大きさ、形、色など)や、いびつな形、不明瞭な境界、色ムラといった特徴を持つほくろには注意が必要です。
セルフチェックの目安としてABCDE法則を参考に、定期的にご自身のほくろを観察する習慣を持ちましょう。
もし、気になるほくろがある場合や、急な変化に気づいて不安を感じる場合は、決して自己判断せず、早めに皮膚科を受診することが最も大切です。
皮膚科医は専門的な知識と診断ツールを用いて、ほくろが良性か悪性かを正確に診断してくれます。
早期に発見し適切な治療を行うことが、皮膚がんにおいては非常に重要となります。
信頼できる情報源、例えば厚生労働省や皮膚科関連の学会などが提供する最新のガイドラインや情報も参考にすると良いでしょう。
また、紫外線対策やバランスの取れた生活習慣は、ほくろの増加を予防するためにも有効です。
日頃から肌を健やかに保つことを意識しましょう。
良性のほくろであっても、見た目が気になる場合は美容的な観点からの除去も可能です。
治療法にはレーザーや切除手術などがあり、ほくろの状態や目的に合わせて選択されますが、これは通常自費診療となります。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療法を推奨するものではありません。
また、記載内容は執筆時点のものであり、最新の医学的知見や個々の症例に当てはまらない場合があります。
ご自身のほくろについてご心配な点がある場合は、必ず専門の医療機関を受診し、医師の診断とアドバイスを受けるようにしてください。