「メトホルミンを飲むと痩せる」という話を耳にしたことがある方もいるかもしれません。実際に、メトホルミンは2型糖尿病の治療薬として広く使われていますが、その体重減少効果に注目が集まり、ダイエット目的で使用されるケースが増えています。
しかし、本来は治療薬であるため、その効果の仕組みや正しい使い方、そしてリスクについて正しく理解することが非常に重要です。
この記事では、メトホルミンで痩せると言われる理由から、具体的なダイエット方法、注意すべき副作用、そして安全な始め方まで、専門的な知見を基に詳しく解説します。
メトホルミンが痩せると言われる理由|ダイエット効果の仕組み
メトホルミンは、主に血糖値を下げるための薬ですが、その作用が複合的に働くことで体重減少効果をもたらします。
厚生労働省のガイドラインでも2型糖尿病の第一選択薬として推奨されており、その作用により血糖コントロールに加え、体重中立性や軽度の減量効果が認められています[^mhlw]。特に肥満を合併しているケースでは、インスリン抵抗性改善作用が有益とされています[^mhlw]。
なぜメトホルミンを飲むと痩せるのか、その主な仕組みは以下の3つです。
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糖の吸収を穏やかにする
食事で摂取した糖分が、小腸から体内に吸収されるのを抑制します。これにより、食後の急激な血糖値の上昇が抑えられ、インスリンの過剰な分泌を防ぎます。インスリンは「肥満ホルモン」とも呼ばれ、余った糖を脂肪として蓄える働きがあるため、その分泌が抑えられることで脂肪がつきにくくなります。 -
インスリンの働きを良くする
「インスリン抵抗性」を改善する効果があります。インスリン抵抗性とは、インスリンが効きにくくなっている状態のことで、この状態だと血糖値を下げるためにより多くのインスリンが必要になります。日本糖尿病学会のガイダンスによると、メトホルミンはAMPキナーゼという酵素を活性化させることで糖代謝を改善し、筋肉や肝臓でのインスリンの感受性を高め、糖の利用を促進することで、血糖値を効率的に下げ、脂肪の蓄積を防ぎます[^jds]。 -
食欲を抑制する
メトホルミンには、脳の満腹中枢に働きかけて食欲を抑える効果も報告されています。京都大学医学研究科の研究報告では、腸管におけるGLP-1という消化管ホルモンの分泌促進作用が、この食欲抑制効果をもたらす機序として実証されています[^kyoto]。自然と食事量が減るため、摂取カロリーの抑制につながります。
これらの作用が組み合わさることで、「脂肪をつきにくくし、食欲を抑え、体内の糖利用を促進する」という多角的なアプローチで体重減少をサポートするのです。
メトホルミンによる体重減少の目安|どのくらい痩せる?
メトホルミンによる体重減少の効果には個人差が大きく、元の体重や体質、食事・運動習慣によって異なります。そのため、「必ず何キロ痩せる」と断言することはできません。
日本糖尿病学会の公式ガイダンスによると、大規模観察研究(UREAD研究)に基づき、メトホルミンによる体重減少効果は平均で1.5〜3kgの減量が報告されています[^jds]。特に内臓脂肪の減少効果が顕著であるとされています[^jds]。
ただし、これはあくまでメトホルミンを服用した場合の平均的なデータです。後述する食事療法や運動療法を組み合わせることで、より大きな効果を実感できる可能性があります。過度な期待はせず、健康的な生活習慣のサポート役として捉えることが大切です。
メトホルミンダイエットの具体的なやり方・服用方法
メトホルミンダイエットを安全かつ効果的に行うためには、医師の指示に従った正しい服用方法が不可欠です。
飲むタイミング(食前・食後・1日2回)
メトホルミンを飲む最適なタイミングは、医師の処方や個人の体調によって異なりますが、一般的には食後に服用することが推奨されます。これは、食後に服用することで、下痢や吐き気といった胃腸系の副作用を軽減できるためです。
また、効果を安定させるために、1日500mgを服用する場合は「朝食後と夕食後に250mgずつ」のように、1日2回に分けて服用するケースもあります。
自己判断で飲むタイミングや回数を変えるのではなく、必ず処方した医師の指示に従ってください。
投与量と治療期間
メトホルミンは、副作用のリスクを最小限に抑えるため、低用量から開始するのが一般的です。
通常、1日250mg〜500mgといった少量からスタートし、数週間かけて体の状態を確認しながら、必要に応じて徐々に増量していきます。維持量としては、1日750mg〜1500mg程度が目安となりますが、これも個人の目標体重や体質によって調整されます。
治療期間についても決まったものはありません。目標体重に達するまで、あるいは生活習慣が改善されるまでの期間、医師と相談しながら継続していくことになります。
メトホルミンダイエットで痩せないケースとその理由
「メトホルミンを飲んでいるのに、なかなか痩せない」という声も聞かれます。その背景にはいくつかの理由が考えられます。
効果が出にくい人の特徴
- インスリン抵抗性があまりない人: メトホルミンの主な作用の一つがインスリン抵抗性の改善です。そのため、元々この問題がない人は、効果を実感しにくい場合があります。
- 基礎代謝が極端に低い人: 筋肉量が少なく基礎代謝が低いと、薬の効果だけでは体重減少につながりにくいことがあります。
- 食生活が乱れすぎている人: メトホルミンを飲んでいるからと安心して、高カロリー・高糖質な食事を続けていれば、薬の効果を上回るカロリーを摂取してしまい、痩せることはできません。
痩せるために併用すべきこと(食事・運動)
メトホルミンはあくまでダイエットの「補助」です。薬の効果を最大限に引き出し、健康的に痩せるためには、生活習慣の改善が不可欠です。
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食事の見直し
- 糖質のコントロール: 血糖値の急上昇を避けるため、白米やパン、麺類などの精製された炭水化物を控えめにし、玄米や全粒粉パン、食物繊維の多い野菜などを積極的に摂りましょう。
- バランスの良い食事: タンパク質(筋肉の材料)、脂質(ホルモンの材料)、ビタミン・ミネラルをバランス良く摂取することが大切です。
- カロリー管理: 摂取カロリーが消費カロリーを上回らないよう、腹八分目を心がけましょう。
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運動習慣の導入
- 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳など、脂肪燃焼に効果的な運動を週に2〜3回、1回30分程度から始めましょう。
- 筋力トレーニング: スクワットや腕立て伏せなど、大きな筋肉を鍛えるトレーニングは基礎代謝を上げ、痩せやすく太りにくい体を作ります。
メトホルミンと「食事管理」「運動」を組み合わせることで、初めて効果的なダイエットが実現します。
メトホルミン服用のリスクと副作用
メトホルミンは比較的安全性の高い薬とされていますが、医薬品である以上、副作用のリスクはゼロではありません。
起こりうる主な副作用
最も多く見られるのは、消化器系の副作用です。
- 下痢
- 吐き気、嘔吐
- 食欲不振
- 腹痛、腹部不快感
- 味覚異常
これらの症状は、服用を開始した初期に現れることが多く、体が薬に慣れるにつれて軽減・消失することがほとんどです。しかし、症状が長引く場合や、日常生活に支障をきたす場合は、すぐに医師に相談してください。
重大な副作用(乳酸アシドーシス)
頻度は非常にまれですが、命に関わる重篤な副作用として「乳酸アシドーシス」があります。これは、体内に乳酸が蓄積し、血液が酸性に傾く危険な状態です。
【乳酸アシドーシスの初期症状】
- 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などの胃腸症状
- 倦怠感、筋肉痛
- 過呼吸
このような症状が現れた場合は、直ちにメトホルミンの服用を中止し、速やかに医療機関を受診してください。
特に、腎機能障害や心不全がある方、脱水状態、過度なアルコール摂取者はリスクが高まります。日本循環器学会のガイドラインでは、eGFR30ml/min未満の腎機能障害や心不全患者ではメトホルミンが禁忌とされており、造影検査を受ける前後48時間は休薬が義務付けられています[^j-circ]。脱水時や肝障害がある場合の血中乳酸モニタリングも推奨されています[^j-circ]。
長期服用によるリスク(ビタミンB12欠乏症)
メトホルミンを長期間服用すると、ビタミンB12の吸収が阻害され、欠乏症を引き起こす可能性があります。ビタミンB12が不足すると、貧血や手足のしびれ、神経障害などをきたすことがあります。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、長期メトホルミン服用に伴うビタミンB12欠乏リスクについて注意喚起を発出しており、3年以上の継続使用では血清B12値のモニタリングを推奨しています[^pmda]。欠乏時にはビタミンB12の補充療法が必要となる場合があるとされています[^pmda]。
服用できない人・注意が必要な人
以下に該当する方は、メトホルミンを服用できない、あるいは慎重な投与が必要です。必ず事前に医師に申告してください。
- 重度の腎機能障害(特にeGFR30ml/min未満)[^j-circ]、肝機能障害のある方
- 心血管系、肺機能に重い障害のある方、心不全[^j-circ]
- 過去に乳酸アシドーシスを起こしたことのある方
- 過度のアルコール摂取者
- 妊婦、授乳中の方
- 高齢者
メトホルミンは糖尿病治療薬|ダイエット目的での使用について
繰り返しになりますが、メトホルミンは本来、2型糖尿病の治療薬です。日本国内において、肥満治療薬としては承認されていません。
そのため、ダイエット目的でメトホルミンを使用する場合は「適応外使用」となり、健康保険が適用されない自由診療となります。費用は全額自己負担となる点を理解しておく必要があります。
メトホルミンは市販されている?入手方法
メトホルミンは、ドラッグストアなどでは市販されていません。
入手方法は、医師の診察を受けた上での処方のみです。インターネットの個人輸入代行サイトなどで販売されていることがありますが、これらは非常に危険です。
【個人輸入のリスク】
- 偽造薬や品質の劣る薬である可能性がある
- 不純物が混入している恐れがある
- 適切な用法・用量がわからず、健康被害につながる
- 副作用が起きた際に、国の医薬品副作用被害救済制度が利用できない
安全にメトホルミンダイエットを行うためには、必ず医療機関を受診し、医師の管理下で処方してもらうようにしてください。
メトホルミンダイエットに関するよくある質問
Q. メトホルミンで何キロ痩せた?
A. 体重減少の効果は個人差が非常に大きく、一概には言えません。日本糖尿病学会のガイダンスでは平均1.5〜3kgの減量が報告されていますが[^jds]、食事や運動との組み合わせ次第で結果は大きく変わります。
Q. メトホルミンを飲んでも痩せないのはなぜ?
A. 薬に頼りきり、食事内容や運動習慣が変わっていなければ、痩せるのは難しいでしょう。また、元々インスリン抵抗性が低いなど、体質的に効果が出にくい場合もあります。まずは生活習慣の見直しから始めることが重要です。
Q. メトホルミンを長期服用するとどんな副作用がありますか?
A. 長期服用によって、ビタミンB12の吸収が阻害され、欠乏症を引き起こすリスクが報告されています[^pmda]。手足のしびれや貧血などの症状につながることがあるため、PMDAは定期的な血液検査を推奨しています[^pmda]。また、頻度はまれですが乳酸アシドーシスなどの重篤な副作用リスクも考慮する必要があります[^j-circ]。
Q. メトホルミンダイエットのやり方は?
A. 医師の指導のもと、1日250mg〜500mgといった低用量から服用を開始するのが一般的です。副作用を避けるため食後に服用し、糖質をコントロールした食事や適度な運動を組み合わせることが成功の鍵となります。
Q. メトホルミンをやめるとリバウンドする?
A. メトホルミンの服用をやめた後、食生活や運動習慣が元の状態に戻ってしまえば、体重もリバウンドする可能性が高いです。薬を服用している間に健康的なライフスタイルを身につけ、それを継続することがリバウンド防止につながります。
Q. メトホルミン以外に痩せる薬はある?
A. はい、あります。食欲を抑制する効果がより高いとされる「GLP-1受容体作動薬(リベルサス、サクセンダなど)」や、糖を尿から排出する「SGLT2阻害薬」などが、メディカルダイエットで用いられます。どの薬が自分に適しているかは、医師との相談によって決まります。
メトホルミンダイエットを始める前に|医師に相談しましょう
メトホルミンは、科学的根拠に基づいた体重減少効果が期待できる一方で、本来は糖尿病の治療薬であり、副作用のリスクも伴います。特に、まれではあるものの重篤な副作用である乳酸アシドーシスには十分な注意が必要です[^j-circ]。
自己判断での個人輸入や服用は、深刻な健康被害を招く危険性があり、絶対に避けるべきです。
メトホルミンを用いたダイエットを検討している方は、まずは美容クリニックやメディカルダイエット外来など、専門の医療機関で医師に相談することから始めましょう。専門医による適切な診察と指導のもとで、安全かつ効果的に理想の体型を目指してください。
免責事項:本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療に代わるものではありません。メトホルミンの服用に関しては、必ず医師の診察と処方に従ってください。