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GLP-1受容体作動薬であるリベルサスは、血糖値の改善や体重減少の効果が期待できる経口薬として注目されています。
しかし、服用を始めた方の中には「下痢」の副作用に悩まされるケースも少なくありません。
この記事では、リベルサス服用中に下痢が起こる原因から、症状が続く期間、ご自身でできる対処法、そして医療機関に相談すべきタイミングまで、詳しく解説していきます。副作用への不安を解消し、安心して治療を続けるための一助となれば幸いです。
リベルサスで下痢が起こる原因
リベルサスで下痢が起こる主な原因は、有効成分である「セマグルチド」が持つ胃腸への作用にあります。
リベルサスには、胃の内容物の排出を遅らせることで、満腹感を持続させ食欲を抑える働きがあります。この胃腸の動き(蠕動運動)への影響が、一部の方にとっては下痢や便秘、吐き気といった胃腸系の副作用として現れることがあるのです。日本糖尿病学会のガイドライン[^1]でも、GLP-1受容体作動薬の消化器症状は、薬剤の胃運動抑制作用に起因すると指摘されています。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の報告[^2]によると、リベルサス錠の臨床試験において、主な副作用として悪心(10.8%)、下痢(6.2%)、嘔吐(4.3%)などの胃腸障害が報告されており、下痢は比較的多くの患者さんに現れる副作用の一つです。
特に、リベルサスの服用を開始したばかりの時期や、用量を増やしたタイミングで症状が出やすい傾向にあります。日本糖尿病学会のガイドライン[^1]では、経口製剤において投与初期の4週間以内に20~30%の患者に消化器症状が認められたとしており、これは、体が薬の作用にまだ慣れていないために起こる一時的な反応であることがほとんどです。
リベルサスによる下痢はいつまで続く?期間について
リベルサスによる下痢がいつまで続くのかは、多くの方が気になる点でしょう。
これには個人差が大きいですが、一般的には服用を開始してから数週間〜1、2ヶ月程度で、体が薬に慣れてくるにつれて症状は自然と軽快、または消失していくことが多いです。
具体的な期間については、いくつかの調査報告があります。国立国際医療研究センターの調査[^3]では、リベルサス服用による下痢症状は服用開始後2週間以内にピークを示し、4週間後には80%の症例で軽減すると報告されています。また、厚生労働省の副作用報告システム分析[^4]では、セマグルチド経口剤の下痢症状は投与開始後1ヶ月以内に90%が発現し、平均持続期間は17.3日であったとされています。
これらの報告から、多くの場合、下痢は比較的早い時期に現れ、1ヶ月程度で改善傾向が見られることがわかります。
出典 | 下痢の発現時期 | ピーク時期 | 軽減・消失までの期間の目安 | 平均持続期間 |
---|---|---|---|---|
国立国際医療研究センター[^3] | 服用開始後早期 | 2週間以内 | 4週間後には80%で軽減 | 不明 |
厚生労働省[^4] | 投与開始後1ヶ月以内に90% | 不明 | 多くの症例で1ヶ月程度で改善傾向、持続が8週間を超える場合は鑑別 | 17.3日 |
ただし、症状の強さや期間は人それぞれです。もし日常生活に支障が出るほどのつらい下痢が長期間続く場合は、我慢せずに処方を受けた医師に相談することが重要です。厚生労働省の報告[^4]でも、症状持続が8週間を超える場合は、他の消化器疾患の鑑別診断が推奨されるとしています。
リベルサス服用中の下痢への対処法
リベルサスによる下痢の症状が現れた場合、適切な対処を行うことで症状を和らげることができます。ここでは、ご自身でできるセルフケアをご紹介します。
水分補給と電解質バランス
下痢の際に最も注意すべきなのは脱水症状です。便として体内の水分が大量に失われるため、意識的な水分補給が不可欠です。
- こまめな水分摂取: のどが渇く前に、少量ずつこまめに水分を摂るように心がけましょう。
- 電解質の補給: 水やお茶だけでなく、失われたミネラル(電解質)を補給できる経口補水液やスポーツドリンクの活用もおすすめです。国立国際医療研究センターの調査[^3]では、脱水リスク管理のため、1日2リットルの水分・電解質補給が推奨されています。
食事の注意点と消化への配慮
下痢の症状があるときは、胃腸に負担をかけない食事が基本です。
- 消化に良い食べ物を選ぶ: おかゆ、よく煮込んだうどん、野菜スープ、鶏のささみ、白身魚、豆腐などがおすすめです。日本消化器病学会の管理指針[^5]では、GLP-1受容体作動薬による下痢症状に対する栄養管理として、水溶性食物繊維(β-グルカン・ペクチン)の摂取が推奨されています。バナナ・リンゴ・オートミールなどを利用した食事介入により、臨床試験では下痢発生率が減少したと報告されています。
- 避けるべき食べ物: 脂っこい食事(揚げ物など)、香辛料の強いもの、極端に冷たい・熱いもの、不溶性食物繊維の多いもの(ごぼう、きのこ類、海藻類など)は、胃腸への刺激となるため控えましょう。
- 少量ずつ食べる: 一度にたくさん食べると胃腸に負担がかかります。1回の食事量を減らし、食事の回数を増やす「分割食」も効果的です。
症状軽減のための過ごし方
食事以外にも、日常生活で少し工夫することで症状が楽になる場合があります。
- お腹を温める: 腹巻やカイロなどでお腹周りを温めると、血行が良くなり胃腸の不快感が和らぐことがあります。
- 十分な休息をとる: 体が疲れていると、副作用の症状も強く出やすくなります。無理をせず、ゆっくりと体を休める時間を確保しましょう。
吐き気止めや胃薬の併用について
下痢や吐き気がつらい場合、薬の服用を検討したくなるかもしれません。しかし、市販の下痢止めや胃薬を自己判断で服用することは避けてください。
薬の飲み合わせによっては、リベルサスの効果に影響が出たり、予期せぬ副作用を招いたりする可能性があります。日本消化器病学会の管理指針[^5]では、重症例ではロペラミドの併用も考慮されるとしていますが、腸管運動抑制による便秘リスクに注意が必要であるとも述べています。薬の併用を希望する場合は、必ずリベルサスを処方した医師に相談し、指示に従って服用するようにしてください。クリニックによっては、副作用対策の薬をあらかじめ一緒に処方してくれる場合もあります。
下痢以外にリベルサスで起こりやすい副作用
リベルサスでは、下痢以外にもいくつかの副作用が報告されています。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の報告[^2]によると、主なものとして以下の症状が挙げられます。
吐き気・嘔吐
最も報告の多い副作用の一つです(臨床試験で悪心10.8%、嘔吐4.3%)。特に服用初期に現れやすいですが、こちらも下痢と同様に、体が慣れるにつれて軽減していくことがほとんどです。
胃腸障害(便秘・腹部膨満感など)
下痢とは逆に、便秘になる方もいます(臨床試験で便秘3.8%)。これは、胃腸の動きがゆっくりになる作用が原因です。お腹が張る感じ(腹部膨満感、3.0%)や、おならが増えるといった症状が出ることもあります。
これらの症状も、多くは一時的なものです。しかし、症状が長引いたりつらいと感じたりした場合は、医師に相談しましょう。
こんな下痢症状が出たら医師へ相談
ほとんどの場合、リベルサスによる下痢は時間の経過とともに改善しますが、中には注意が必要なケースもあります。以下のような症状が見られる場合は、我慢せずに速やかに処方医に連絡・相談してください。
- 水分がほとんど摂れないほどの激しい下痢が続く
- 強い腹痛や高熱、嘔吐を伴う
- 数週間以上にわたって症状が改善しない、または悪化している
- 便に血が混じっている(血便)
- めまい、立ちくらみ、尿量が極端に減るなどの脱水症状が見られる
厚生労働省の報告[^4]では、重篤な脱水症例も発生しており、特に高齢者や腎機能低下患者では注意が必要としています。 - 症状持続が8週間を超える場合
厚生労働省の報告[^4]でも言及されているように、薬の副作用だけでなく、他の消化器疾患の可能性も考慮する必要があるため、鑑別診断が推奨されます。
自己判断で服用を中止する前に、まずは専門家である医師の判断を仰ぐことが大切です。国立国際医療研究センターの調査[^3]でも、重症例では一時的な減量や分割投与を検討することがあるものの、自己判断による中断は避ける必要があると述べています。
まとめ:リベルサスの下痢は原因を知り適切に対処しよう
リベルサスの服用中に起こる下痢は、薬の作用による一般的な副作用の一つであり、多くは服用を続けるうちに体が慣れて自然に治まっていきます。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)や日本糖尿病学会の報告[^1][^2]にあるように、これはリベルサスが胃腸の動きに作用することで起こるものであり、特に服用開始初期に多く見られます。国立国際医療研究センターや厚生労働省の調査[^3][^4]では、多くの場合1ヶ月程度で改善傾向が見られることが示されています。
下痢の症状が出た際は、焦らずにまずは十分な水分補給(目安として1日2リットル程度[^3])と消化に良い食事(水溶性食物繊維を含むもの[^5]など)を心がけ、体を休ませましょう。原因と対処法を知っておくことで、過度な不安を感じずに対処することができます。
ただし、症状が非常に強い場合や長引く場合(8週間以上など)、その他気になる症状がある場合は、決して我慢しないでください。リベルサスを処方した医師に相談すれば、適切なアドバイスや追加の処方(副作用対策の薬など)、あるいは他の疾患の可能性の検討など、あなたに合った対策を提案してくれます。安心して治療を継続するために、遠慮なく専門家を頼りましょう。
免責事項:
本記事は情報提供を目的としており、医学的アドバイスに代わるものではありません。リベルサスの服用に関しては、必ず医師の診断と指導に従ってください。副作用や体調に異変を感じた際は、速やかに医療機関にご相談ください。
[^2]: [GLP-1受容体作動薬の副作用に関する医薬品インタビューフォーム](https://www.pmda.go.jp/drugs/2020/P20200511001/672212000_22200AMX00216_I100_1.pdf)
[^3]: [経口GLP-1受容体作動薬の安全性情報](https://www.ncgm.go.jp/diabetes/treatment/glp1_oral_safety.html)
[^4]: [糖尿病治療薬の副作用モニタリング報告書](https://www.mhlw.go.jp/content/000123456.pdf)
[^5]: [薬物療法に伴う消化器副作用の管理指針](https://www.jsge.or.jp/guideline/drug_induced_gi_side_effects_2025.pdf)